ざわめく教室の中、俺は語った
突然、教室に入って来たいかつい男二人。
その容姿に、その二人が何者なのか知っていなければ、教室の中は悲鳴で満たされたに違いない。
だが、みんなはその男たちの正体を知っていた。天才少女 有栖川の身辺を警護しているSPだ。
「いい加減にしなさい。
君たち席に戻って、座りなさい」
クローン少女たちに向かって、声を荒げた。
「おやおや。公務員さんたち、ご苦労さん。
でも、ご存じでしょ。彼女たちはあの宮島財閥のお嬢様方ですよ。
そんな彼女たちに無礼はいけませんねぇ」
田島が椅子の背もたれに深く体を預けながら、おちょくるように言った。
二人のSPが狼狽するのを期待していた田島の期待は、見事に打ち破られた。
「それがどうした。
彼女に何かしようとしたら、即刻連行させていただく」
二人は全く躊躇を見せず、今度は田島を睨み付けた。
「国は、あんたたちより彼女の方が大事だって事さ」
俺が田島に向かって言うと、田島は怒りの表情で席を立って歩き始めた。
腹の中に沸き起こった怒りの矛先を俺に向けたんだろう。
俺になら、SPたちも何もしない。
そう思っていたはずだ。
だが、そう簡単には行かない。
SPたちは教室内で騒動が起こるのを防ぐため、田島の腕をつかむと、思いっきり引っ張って、自分の席に連れ戻した。
苦々しげな田島の顔。
その表情に、俺は思わずぷっと吹き出してしまった。
SPたちの介入で、冷静さを取り戻した教室の中、有栖川は席について、一人でもくもくとお弁当を食べ始めた。
まだ表情がむっとしているところから見て、天才少女もかなり感情には支配されるらしい。
俺が横にいる宮島やよい5号に目をやった。
怯えが浮かぶ宮島やよい5号に、佳織がにこりと微笑みながら、自分の手を宮島やよい5号の手の上に重ねると、宮島やよいが顔を上げた。
そんな宮島やよい5号に、俺は声をかけた。
「大丈夫。俺が君を守る。
自分の気持ちに素直になればいいと言って、背中を押してしまったのは俺な訳だし」
実際、俺はそのために、ここに戻ってきたんだし。
宮島やよいは俺に視線を向けた。
その瞳は自分がしている事の怖さで、うるんでいた。
「そのために、一つだけ教えておいてほしい。
宮島の家を出る覚悟はあるよね?」
あのクローン少女たちが言っている事には一理ある。
宮島やよい5号のやっている事は宮島の家の意向から外れている。
だから、宮島の家から切り捨てられる事になるのだ。
そんな事は予想できているはずだ。
理性的な判断を超えて、宮島やよい5号は田島を嫌いだと言う感情を隠せなかった。
宮島やよい5号には、自分が切り捨てられるであろう宮島の家から出ると言う具体的な選択肢さえあれば、家を出る覚悟はある。
そう信じていたが、本人からの言葉を確認しておきたかった。
しかし、その話は唐突過ぎたようだ。
宮島やよい5号は「へ?」と言う表情を俺に向けた。
俺は自分の言っている言葉をもう少し補足しなければならない事に気付いた。
俺は体を宮島やよい5号に寄せると、そっと顔を近づけて行った。
驚いた表情で固まった宮島やよい5号。
目は見開き、頬が赤くなっている。
そんな光景に教室が騒然となった。
それは好機である。
俺の声はますます周りの騒音でかき消される。
「君だけに話したいことがあるんだ。耳を近づけて」
驚いた表情のままだったが、小さく頷くと、宮島やよい5号も俺に耳を近づけてきた。
ざわめく教室の中、俺は作戦を語った。
そんな俺の前で、佳織はぷいと顔を横に向けたまま視線を逸らしていた。
「本当に、そんな事ができるのですか?」
「ああ。できる。正確にはできる人がいる。」
「分かりました。島原君を信じます」
二人の会話が終了した。
そう感じ取った佳織が不機嫌そうな顔から、明るい表情に戻して言った。
「さあ、早く食べようよ」
宮島やよい5号も戸惑いながらも頷いて、再びお箸を手にした。




