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詐取したクローン少女

 頭脳明晰な子。

 その意味は脳のつくりを調べるためだったんだ。

 クローンと言っても、俺には人間としか思えない。

 こんな小さな子があんな目に遭うなんて、俺は許せない。


 「君がここに来る前にIQテストは受けた?」


 さっきまでとは違い、そう言った俺の声は震えていた。

 それを感じ取った広中が怪訝そうな顔つきで、俺にたずねてきた。


 「どうかされたのですか?」

 「あ、いえ。どうも手違いがあった可能性が高いようで、どうしたものかと思ったもので、少し焦ってしまいました」

 「では、この子は私どもの要望に合致していないと?」


 本来の目的ではなかったにもかかわらず、あまりの惨い現実を前に、俺はこの子を救い出したくなっていた。

 しかし、ここでこの子を連れ出してしまうと、それはもう犯罪だ。

 一瞬、そんな思いが脳裏をよぎったが、俺の口は止められなかった。


 「え、ええ。真に申し訳ないのですが」


 広中にそう言った後、再び子供に視線を向けた。

 その子は俺のさっきの質問の意味が分からないと言う風に小首をかしげている。

 東海化学で造られているクローンたちにIQテストなんてものは受けさせてはいないし、そんなものの存在すら知っていない事くらい、俺も知っている。


 「出荷時にIQ検査もしておらず、また私の評価結果では、この子は別の会社に向けて出荷するはずだったものが、誤って御社に届けられたようです」


 俺は立ち上がると、深々と頭を下げた。


 「御社との取引を始めたいばかりに、出荷を焦ってしまったようです。

申し訳ありませんでした」


 佳織も慌てて立ち上がると、俺に続いて頭を下げた。


 「つきましてはその子はこのまま引き取らせていただき、御社のご要望のものを早急に用意させていだたきますので、弊社との取引開始を引き続き、ご検討いただきたく、よろしくお願いいたします」


 俺はそう言うと、鞄の中から万が一のために用意してきていた預かり書を取り出して、広中に差し出した。



 そろそろ空の真ん中に差し掛かろうかと言う太陽の強い日差しが、タクシーのドアのガラスを通り抜けて、スーツの上から俺の体温を上昇させている。

 俺は黙って揺られながら、スマホを手にしていた。

 差し込む日差しが時折スマホの画面にあたり、画面の文字をかき消して行く。


 俺の横には寺下産業に連れてこられた時に来ていたと思われる服を着て、あの子がうなだれ怯え気味で座っている。

 水色のワンピース。

 やっぱり、女の子だった。

 その頭にはどこからか広中が調達してきた帽子がかぶさっていて、一見では髪の毛が刈られているとは気づかない。


 タクシーの中、不用意な発言はできない。

 佳織も黙ったまま、その子の肩を抱いてあげていた。

 俺はスマホで上杉里保と言う人物のデータを作り上げたように、この子のデータも作り上げようと、すみれ子にメールを打った。


 「悪い。この前、上杉里保と言う名の人物のデータを作り上げて、宮島のクローンを上杉里保に仕立て上げたけど、同じことをしてもらえないか。

 相手は8歳の女の子で名前を結希にして、里保の妹として、うちの初等部の生徒にしてほしい」


 一度お願いした事だ。

 メールで十分話は伝わるはずだ。この子の本当の年齢は分からないと言うか、クローンだけに培養システムの中で加速して育てられているだろうから、見た目以外に年齢なんてないようなものだ。

 俺が見た目で勝手に8歳にした。


 やがて、俺たちを乗せたタクシーは近くの電車の駅前にたどり着いた。

 俺たちはここで一旦タクシーを降りると、トイレで服装を着替え、流しのタクシーを捕まえて乗り換えた。


 寺下産業の監視カメラの録画データは全て破棄されるように、佳織が仕組んできた。

 俺たちが名乗った名前も俺たちの名前ではない。

 俺たちの素性は極力ばれないようにしているつもりだ。

 街中の防犯カメラも避けながら、何度もタクシーを乗り継ぎ、俺たちは部屋を目指す。

 そして、最後に乗り継いだタクシーも、俺たちの部屋から徒歩で30分以上離れた場所で降りた。

 ここまですれば、容易に俺たちにたどり着けないはずだ。


 俺の横を結希と手をつないだ佳織が歩いている。

 俺は辺りに視線を向けた。

 暑い日が照りつける時間帯。周りに人の気配はない。

 その事を確認すると、俺は聞きたかった事を早速たずねた。


 「で、佳織。分かった事は何なんだ?

 処分された宮島やよいのクローンたちはいたのか?」


 佳織はつまらなさそうな表情で、首を横に振った。


 「あそこは外国企業からの依頼で人工知能を開発するため、脳の造りに関する情報を収集しているんだけど、それを始めたのはまだ1年ほど前。

 つまり、それ以前に処分された宮島やよいのクローンに関しては、あそこは関知していないって事になるわね」

 「つまり、本来の目的は達成できなかったって事か」

 「そう言う事」


 佳織が冷たい口調で言った。

 俺はその横の結希の固い表情に気づいた。

 結希は佳織に手をつながれ、どこかに無理やり連れて行かれる子供のようじゃないか。


 俺とした事がうかつだった。

 真っ先に、俺たちが味方だと教えてやらなければならなかった。

 俺は結希にこれからの事を話した。

 俺たちは危害を加えたりはしないこと。味方だと言う事。

 名前を「上杉結希」と名乗って、これからは普通の暮らしをして、学校に通う事。

 そして、俺たちは家族みたいなものだと言う事を。


 不安げだった結希だったが、俺の話が終わる頃には、目が輝き始めていた。

 小さな子だけに、素直なんだろう。

 俺の話を全く疑いもせず、受け入れたようだ。

 もちろん、嘘なんかじゃないが。


 明るさを取り戻した結希と佳織。

 そんな二人と共に、俺たちは家を目指しはじめた。

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