すみれ子の活躍
停車したポールポイスの後部座席の窓がゆっくりと開いていく。
「誰が乗っているのか?」そんな思いで、男たちが視線をそこに向けている。
ゆっくりと時が流れているかのような空間の中、主人公様の登場だ。
開いた窓から顔をのぞかせたのは、黒い前髪を垂らした大きな瞳の少女。すみれ子だ。
「あら、上杉さん、どうかされたのですか?」
少し首をかしげながら、俺たちに声をかけてきた。俺の筋書き通りの展開だ。
次の台詞で、男たちがどうするのか?
それで、実力行使が必要かどうかが決まる。
「山城様。ちょっと、トラぶっていまして」
俺はそう言って、男たちの反応を見ようとちらりと男たちを見た。
男たちは顔を見合わせている。
山城財閥の関係者だと言う事は誰にでも分かるシチュエーション。
「上杉さん、困った事がおありなのですか?
すみれ子にできる事がございましたら、お力にならさせていただきますわよ」
すみれ子が落ち着いた声で、里保に語りかけた。
山城すみれ子でさえ、宮島やよいではなく、上杉と言った。
この事実は男たちを困惑の坩堝に叩き落としているはずだ。
「ええ。なんだか、この人たちが私の事を宮島やよいだと言って、車に乗せようとするんですよ」
「上杉さんと宮島さんですか。確かに似ていると言えば似てはおりますわね。
ですが、私のご友人でもあります上杉さんにご無礼を働くとは、許せない事ですわ。
それはつまり、私ども山城家に敵対する事と同じですわね」
「山城家に敵対」
この言葉を聞いて、怖気づかない者など、この国にはいないはずだ。
俺は男たちに視線を向けた。
男たちの視線が一点に移動し、その顔に怯えが走った。
そこに俺も視線を向けた。
すみれ子が乗っている車から、二人の男たちが降りてきていた。
スーツ姿でびしっと決めているが、その体格と黒いサングラスから言って、ただものではないと言うオーラを感じずにはいられない。
「あ、いや。これは人違いだったようだ。ご迷惑をおかけしました。
失礼します」
里保を襲っていた男たちは自分たちの車に乗り込み、急発進して立ち去って行った。
俺はここに来た甲斐があった。
未来を変え、この世界にいる宮島やよい5号を救う事ができたのだ。
小早川さんに依頼した人生をリセットする装置。
もう無くてもいい訳だが、あって困るものでもない。このまま開発してもらっていて損はない。
俺は一人頷きながら、深呼吸して大きく息を吐き出した。
「乗って行きますか?」
すみれ子が言った。
「いや、そこだし、歩いてくよ。
それより、今日の事はありがとう」
俺の言葉にすみれ子はにこりとして、後部座席の窓を閉じた。
立ち去って行くすみれ子を乗せた車を見送ると、俺たちは家を目指して歩き始めた。
里保は今日から、俺たちの新しいルームシェア仲間だ。




