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足湯喫茶は今日も客の心を癒す  作者: 櫛田こころ


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第1話 足湯喫茶『らぱん』とは

転載でーす!


三話で完結

 とある場所にある、とある喫茶店。


 そこには、店内に少し変わった『趣向』をこらしていることで話題になっていた。商店街の端の方にある、ログハウス風の建物。煙突があることから、薪ストーブが設置されていることが窺える。


 と、そこまでは別段おかしくはない。昨今では自宅でも薪ストーブを設置する家庭が増えてきたのだから。



「今日の薪は……楓がいいか」



 鼻歌をご機嫌に歌いながら、薪をくべていくのは黒い豹の頭を持つ獣人。手足は人間のそれに近いが黒い体毛には覆われている。ストーブのセッティングが終わったら、次はどうしようかと悩む彼こそが喫茶店『らぱん』の店主、橘花(きっか)である。


 ストーブが温まるにつれ、店内もぽかぽかほわほわと温まっていくが、ストーブ以外の箇所からも湯気が少しずつ立ち上っていく。ここの『趣向』の関係でその湯気が出る仕組みなのだが、煙突から程よく逃げていくので通報されたことはない。


 何故なら、ここの代名詞とも言える名物は。



「マスター! お湯、もう出来てる!?」



 カランコロンとドアベルを強く鳴らす勢いで入ってきたのは、常連客のOLだった。明るいグリーンの髪が特徴以外は普通の人間と変わらない。しかし、混血種族の多い時代ゆえ、生粋の人間はごく稀だ。彼女は水に特化している魚人族のクォーター。フルネームを橘花は知らないが、コンノというのは知っている。友人との来店のときに呼ばれていたからだ。



「いらっしゃいませ。まだ少し温めですが」

「大丈夫! しっかり、ゆっくりあったまりながらご飯も食べるよ!!」

「そうですか。お好きな席でお待ちください。今、おしぼりやタオルを準備しますので」

「はーい」



 橘花が準備をしている間に、コンノこと金野紗千香はカウンター席のひとつを選び、荷物を整えたあとに床の『フタ』を開けた。下には湯気が軽く立つくらいに『お湯』がちゃぷちゃぷと入っている。



「……はぁ。今日もいい匂い」



 靴を脱ぎ、靴下も同じく。レギンスも少しめくり、お湯で濡れないくらいに足を出して……そっと浸かった。文字通り、『足湯』するために。


 ここの名物は喫茶店としても有名だが、なにより『足湯』で癒される店としても有名。紗千香は最初は友人に誘われて何回かテーブル席の方でまったりしていたが、今ではひとりでのんびりカウンターでくつろぐことが多い。


 お湯も水道水ではなく、わざわざ源泉を引いているというこだわりなのは橘花から聞いていたが……お湯だけの純粋な香りも心地よくて、心身共にリラックス出来てしまうのが溜まらなかった。



「お待たせしました。おしぼりとタオルです」



 足湯を楽しむ喫茶店でもあるので、タオルも最初に用意されるのだ。橘花だけで店を切り盛りしているが、タオルの洗濯は苦じゃないので客の持ち込み以外は店でもきちんと用意しているのである。


 紗千香にメニューを渡せば、今日のおすすめが気になったのか指を向けて、



「出汁入りの卵焼きサンド!! 飲み物はホットの緑茶で!」

「かしこまりました。飲み物はごいっしょで?」

「はい、お願いします」

「では。足湯をご堪能されてください」

「もう十分、リラックス~」



 ぽかぽかのほわほわで気持ちまでも蕩けたような返事だった。いい具合に湯も温まってきたのだなと橘花は内心頷き、キッチンカウンターへ入ってから注文のサンドイッチを作ることに。このサンドイッチはゆで卵ではなく、『だし巻き卵』並みに分厚い卵焼きを挟むサンドイッチ。


 贅沢に大きめの卵三つでと、出汁以外に少々の調味料とたっぷりの油。あとは腕の見せ所だと、慎重にかつ手早く卵を焼いていく。パンは少し炙ってから、内側に辛子バターを適当に塗る。店によっては海苔を挟むところもあるらしいが、『らぱん』では純粋に卵焼きを味わってもらいたいのでそのままパンと挟むだけ。


 パンと卵焼きが軽くなじむくらいに置いたらカットして、同時に用意した飲み物といっしょにトレーへ乗せて配膳していく。到着すれば、さっき以上にとろとろした表情の紗千香がカウンターに頭を乗せてくつろいでいた。



「お待たせいたしました。ご注文のサンドイッチです」

「ありがと~。あ~。この時間だけは足出さないと」

「ご配慮、ありがとうございます」

「お湯汚しちゃいけないもん」



 入店時と待ち時間。歓談のときに足湯を楽しむのは問題ないが、食事中はフタをしてもらうのが決まりの足湯喫茶。うっかり食べ物が入ってしまうと掃除するのが大変だからだ。開店当時はそれはそれは大騒ぎになった苦い思い出があるくらい。なので、店内の広告はほとんどそういった注意喚起くらいだ。


 紗千香がフタをしたのを確認し、食事を楽しんでもらうのに下がって数分もしないうちに、カウンターから『飲める、この卵焼き~』と絶賛の声が聞こえてきたので、内心ガッツポーズ。そのレビューが聞けるのであれば、また技術を上げねばと決意が高まるほどだ。



「こんにちは~」

「「こんにちは!!」」



 豹の耳に元気な来店の声が届くと、振り返って一礼する。



「いらっしゃいませ、ようこそ足湯喫茶『らぱん』へ」



 美味しい食事と、のんびりゆったり出来る『足湯』の公共施設が、このログハウス風の建物。


 名物の『足湯』は源泉を引いてきている本格的な温泉そのもの。どうぞ、心ゆくまで温まって癒される……そんな謳い文句は町から市へ、さらに県外からも噂が立つほどだ。


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