第6話 隣の席の毒舌美少女は、わりと世話を焼く
高校生活というものは、もっとこう、ざっくりしていると思っていた。
たとえば先生が教室へ入ってきて、「はい今日はここまで読んでねー」と言って、あとは何となく流れていく。たまに提出物があって、忘れたやつが怒られて、委員会とか係とかが適当に決まって、クラス全体がゆるく形になっていく。そういう、大雑把で、良くも悪くも人間的なものを想像していた。
現実は、そこまで間違ってはいなかった。
間違ってはいなかったのだが、問題は僕がその“大雑把”の中へ入るのが、壊滅的に下手なことだった。
「神代くん」
ホームルームの途中、木乃実が小声で振り返る。
「何」
「さっきからさ」
「うん」
「プリント並べるの、やたらきれいじゃない?」
「……え」
「そこ驚くところなんだ」
木乃実が笑う。
「見てたら、なんか端がそろいすぎてて気になっちゃって」
「いや、だって揃えるだろ、普通」
「揃えるけど、“よし揃った”って満足するほどは揃えないかな」
「それは人によるんじゃない?」
「神代くんの場合、人によるの範囲をちょっと出てる気がする」
前の席の佐伯まで肩を震わせている。
「分かるわ。さっきから配布物の扱いが丁寧なんだよな」
「丁寧っていうか、慎重?」
「慎重っていうか、“なくしたらまずい重要書類”みたいな扱い」
「高校のプリントだよ?」
「いや、だからそうなんだって」
僕は無言で自分の机の上を見る。
そこには、時間割表、提出書類の一覧、校内案内図、部活動紹介のプリント、健康診断の予告、学級委員と係決めの希望調査用紙、学校連絡アプリの登録案内などが並んでいる。
多い。
あらためて見ると、かなり多い。
しかもこういうのは、一枚なくしただけで妙に困る。いや、僕だけが困るわけじゃないだろうが、少なくとも僕はかなり困る。分からないことがあるのが嫌なのだ。あるいは、分からないままにしておくことが嫌と言うべきか。
「……そんなに変かな」
僕が言うと、
「変」
「変」
「少し変ですわね」
木乃実、佐伯、エヴァの三人がほぼ同時に答えた。
連携がよすぎる。やめてほしい。
「いや、でも確認は大事だろ」
「大事だよ」
木乃実は頷く。
「でも神代くんの場合、“大事だから見る”じゃなくて“全部把握しないと落ち着かないから見る”って感じなんだよね」
「……」
「図星っぽいね」
「図星かもしれない」
「正直だ」
「正直に言っても、すでに十分変扱いされてるし」
「そこまで自覚あるなら、もうちょっと肩の力抜けない?」
「抜き方が分からないんだよ」
「それ、わりと深刻じゃない?」
「僕もそう思ってる」
遠山先生が前で何か説明している。アプリ登録のやり方だ。保護者連絡、欠席連絡、学校からのお知らせ、災害時の一斉通知。たぶん今どきの高校としては普通なのだろう。たぶん。
ただ、その“たぶん”が僕には危険だった。
説明を聞きながら、僕は配られた登録案内の紙を見ていた。QRコード、登録番号、認証、仮パスワード、ログイン後にプロフィールを設定、通知設定の確認。手順自体は単純だ。単純だが、こういうものは最初の一歩を間違えるとあとで面倒になる。
「ねえ」
木乃実がまた振り返る。
「まだ何か」
「いや、神代くんさ」
「うん」
「今の説明、そんな真剣に聞く?」
「聞くだろ」
「ここまで?」
「ここまでだよ」
「うわ」
「何だよ、その“うわ”」
木乃実は笑ってから、小さな声で言った。
「神代くんって、先生にすごく好かれそう」
「そうかな」
「好かれるっていうか、“ちゃんとしてる子”認定されそう」
「それ、得なのかな」
「得な時と、損な時がある」
佐伯が言う。
「雑用頼まれやすくなる」
「それは困る」
「困るんだ」
「静かに生きたいし」
「静かに生きたい人の返事って、もっとこう、ぼんやりしてるんだよな」
「ぼんやりは難しい」
「神代くんさ」
木乃実がしみじみ言う。
「けっこう生きづらそうだよね」
「初めて会って二日目の相手に言うこと?」
「でも否定しないでしょ」
「……」
「ほら」
「否定しないっていうか、否定できないだけなんだよ」
その会話の横で、エヴァは淡々と自分のスマートフォンを操作していた。
速い。迷いがない。指の動きが妙に無駄なくて、ああこの人こういうところも手際いいんだな、と思う。腹立たしいくらいに。
「登録、終わりましたの?」
僕が紙と端末を見比べていると、エヴァがちらりと視線を寄越した。
「いや、今から」
「まだ、ですの?」
「まだっていうか、確認してから」
「何をそんなに確認する必要がありますの」
「いや、番号とか、間違えたら」
「入力欄はひとつですわ」
「でもそういう“簡単なやつ”ほど逆に」
「逆に?」
「焦ると危ない」
「……」
エヴァは一瞬だけ黙ったあと、ごく短く息をついた。
「貸してください」
「え」
「見て差し上げます」
「いや、そこまでしなくても」
「隣で見ていて落ち着きませんの」
「それ、助ける理由としてどうなんだ」
「十分でしょう」
「君の中ではそうなんだろうな……」
僕がスマートフォンと紙を渡すと、エヴァはほんの数秒で内容を確認し、返してきた。
「合っています」
「早いな」
「あなたが慎重すぎるだけです」
「でも安心した」
「それは結構ですけれど」
エヴァは少しだけ眉を寄せる。
「こういうものは、全部を重く受け止めすぎると疲れますわよ」
「受け止めたくて受け止めてるわけじゃないんだよ」
「ではどうして」
「最初にちゃんとしておけば、あとで困らないだろ」
「……」
「何」
「少しだけ、分からなくもないですわ」
「え」
「驚くところですの?」
「いや、君こういう時、もっと“面倒くさい人”みたいに切ると思ってたから」
「面倒くさいとは思っていますわ」
「思ってるのか」
「思っています」
「そこで正直なんだ」
「ただ」
エヴァは視線を逸らした。
「面倒くさいことと、理解できることは両立しますもの」
「……なるほど」
「納得しないでください」
「いや、でも」
「納得されると、こちらが困ります」
「それはずるくない?」
木乃実がそのやり取りを、にやにやしながら眺めていた。
「ねえ」
「何」
「神代くん、エヴァさん」
「何ですの」
「だいぶ隣の席っぽくなってきてるよね」
「どういう意味?」
僕が聞き返すと、
「どういう意味って、そのままだよ」
木乃実が肩をすくめた。
「昨日は“なんかお互い探ってる人たち”って感じだったけど、今日は“文句言いながら助ける人と助けられる人”になってる」
「語彙が妙に的確だな」
「でしょ?」
「でしょ、じゃない」
エヴァが言う。
「助けてなどいません」
「今、完全に助けてたじゃん」
「確認しただけです」
「その確認が助けなんだって」
「木乃実さん」
エヴァは少しだけ冷たい声になった。
「あなたは何でも恋愛的に解釈しすぎではありません?」
「そこまで言ってないよ?」
「言外にありましたわ」
「鋭い」
「当然です」
僕は横でそれを聞きながら、少しだけ救われていた。
会話がある。会話が続いている。しかも自然に。昨日までなら、エヴァとこうして何往復も言葉を交わすこと自体が一種の事故だったのに、今日はもう少し滑らかだ。
それが何だか不思議で、少しだけ心地いい。
すると今度は後ろから、別の意味で心地よくない気配が近づいてきた。
「恒一くん」
朱音である。
声が柔らかい時ほど、微妙な警戒が必要だということを、僕は長年の経験で知っていた。
「何」
「お水、いる?」
「え」
「今日ちょっと喋りすぎてるでしょ。喉乾いてない?」
「いや、それは……」
「あると思って」
朱音はそう言って、ペットボトルを机の上に置いた。
「一本多めに持ってきたの」
「……」
善意だ。これは完全に善意である。善意なのだが。
木乃実が目を丸くした。
「えっ、すご」
「何が?」
朱音がきょとんとする。
「いやだって、タイミングよすぎない?」
「そう?」
「そうだよ。え、神代くんってそんなに喉乾きそうな顔してた?」
「してたんじゃない?」
朱音は僕を見る。
「ね?」
「いや、たしかに少し乾いてたけど」
「ほら」
「“ほら”じゃないんだよなあ」
僕は思わず言った。
「そういうの、自然にやりすぎると周りが引くから」
「引いてないよ?」
朱音は本気でそう思っている顔をしていた。
「むしろ優しいって思われてるでしょ?」
「優しいとは思ってる」
木乃実が素直に頷く。
「でも、幼馴染ってそこまでピンポイントで水出してくるんだ……っていう驚きもある」
「だって恒一くん、喉乾いてても自分で気づかない時あるから」
「僕は小動物か何かかな」
「たまにそう」
「たまにで済む?」
「大丈夫、ちゃんと人間」
「今の“ちゃんと”が不安なんだけど」
エヴァがそのやり取りを見て、ほんの少しだけまぶたを伏せた。
いや、たぶん伏せたのはほんの一瞬だったと思う。気のせいかもしれない。でも、彼女の表情がわずかに硬くなったように見えた。
「幼馴染とは、そこまでするものですの?」
ぽつり、とエヴァが言った。
朱音はすぐにそちらを見る。笑顔だ。笑顔だが、笑顔のままちゃんと戦えるタイプの人間というのは恐ろしい。
「するよ?」
「そうですの」
「だって昔からだし」
「昔からなら何でも許される、というわけでもないと思いますけれど」
「許されるかどうかじゃなくて、もう習慣なんだよね」
朱音はさらりと言う。
「恒一くん、ぼーっとしてるとほんとにいろいろ後回しにするし」
「そんなことない」
「するよ」
「しない」
「するって。昨日の夜もさ」
「昨日の夜の話はしないで」
「あ、そこはだめなんだ」
「だめだよ」
「ふうん」
朱音はちょっとだけ楽しそうに口元を上げた。
「じゃあ、そのへんは人前じゃ控える」
「助かる」
「でも二人きりの時は言うね」
「その宣言いる?」
「いるよ。大事だもん」
「何が」
「牽制?」
「誰に対しての」
「さあ?」
「怖いなあ」
木乃実が完全に面白がる顔になっている。やめてほしい。燃料を投げるな。
「神代くんってさ」
木乃実が言う。
「自分では普通にしたいんだろうけど、周りが普通にさせてくれないタイプだよね」
「今さらそれ言う?」
「確認」
「確認で人を疲れさせるのやめて」
「でも本当じゃん。隣の席は隣の席でめっちゃ見てるし、幼馴染は幼馴染で世話焼きすぎるし」
「そこにクラスメイト代表みたいな顔で混ざってくる木乃実さんもだいぶ原因の一端なんだけど」
「え、私?」
「君」
「やった」
「喜ぶなよ」
教室のあちこちで係決めの話が始まる。学級委員がどうとか、日直はどうするとか、掲示係や図書係がどうとか、そういう“いかにも学校”な会話だ。
僕はその流れを見ながら、なんとなく自分の手元へ視線を戻した。登録案内は終わった。プリントも揃っている。朱音が置いていった水もある。エヴァの確認のおかげで、アプリも無事に登録できた。
順調だ。
少なくとも、昨日の僕から見ればかなり順調である。
「あなた」
エヴァが小声で言った。
「何」
「係、どうなさるつもりですの」
「どうするって?」
「何かしら、決めなければなりませんでしょう」
「……」
そこで初めて、僕は配られた希望調査用紙の存在を思い出した。
しまった。
係。そうか、係だ。クラスというものには係がある。学級委員とか、保健とか、美化とか、図書とか。そういう、教室という共同体を成立させるための役割がある。当然だ。あるに決まっている。決まっているのだが、僕の脳内はさっきまでアプリ登録の方へ全振りしていた。
「忘れてた顔ですわね」
エヴァが言う。
「……少し」
「少しではありませんわね」
「少し以上だけど認めたくなかった」
「無駄な抵抗です」
「係、何が無難かな」
「無難さで決めるんですの?」
「静かに生きたい」
「なら、目立たないものにすればいいでしょう」
「どれが目立たない?」
「図書あたりでは?」
「でも図書って、本好きだと逆に“らしい”感じが出ない?」
「何ですのその細かい警戒は」
「大事だろ」
「あなたの頭の中、常に選択肢が多すぎません?」
「否定できない」
「でしょうね」
少し考えてから、エヴァはペン先で自分の紙を軽く叩いた。
「美化」
「え?」
「いちばん無難ですわ。目立たない、責任も重すぎない、でもまったく何もしないわけでもない」
「妙に分析が具体的だな」
「あなたに合わせて話しているだけです」
「合わせてくれてるんだ」
「認識しないでください」
「ひどい」
でも、たしかに筋は通っている。
僕が真剣に“美化委員”の文字を見ると、エヴァが半眼になる。
「そこまで本気で悩むことですの?」
「高校生活において、係は地味に大事だろ」
「たぶん、あなたが思っているほどではありませんわ」
「いや、でも最初の選択を間違えると」
「あなた、ほんとうにそういう生き方をしてきたんですのね」
「どういう」
「何でも最初に整えておかないと不安になる生き方です」
「……」
「図星ですわね」
「いや」
僕は少しだけ笑った。
「そこまで言われると、図星っていうか、ちょっと恥ずかしい」
「なぜ」
「バレてる感じがするから」
「バレていますわ」
「断定するなよ」
「断定できるくらい分かりやすいのです」
「それでよく僕のこと変だって言えるな。君も大概観察しすぎだろ」
「わたくしは普通です」
「普通の人は隣の席の人間の係選びにそこまで的確な助言しないと思う」
「それは」
エヴァは少しだけ言葉を切った。
「……隣で妙に悩まれると、気になるからです」
「気になるんだ」
「ええ」
「心配で?」
「苛立つからです」
「言い直した」
「最初からそう言っています」
「ちょっと遅かったけどね」
その時、担任が前で声を上げた。
「じゃあ希望がある人から順番に聞いていくねー。被ったら相談、いなかったらこちらでお願いするから」
係決めが始まる。
木乃実はノリよくイベント係みたいなものに手を挙げ、佐伯は体育委員っぽい役に自然に収まった。朱音は保健委員へすっと手を挙げる。なんだその隙のない選び方は。絶対、僕の近くへ来やすい役を考えて選んでるだろ。
「柊原さん、保健ね。了解」
遠山先生が書き込みながら言う。
「神代くんは?」
「え」
「希望ある?」
「……美化で」
「お、意外と堅実」
木乃実が笑う。
「神代くんっぽいかも」
「どこが」
「なんか“ちゃんとやりそう”」
「褒めてる?」
「今日は九割褒めてる」
「上がったな」
先生が次へ進む中、僕は横目でエヴァを見る。
「君は?」
「図書ですわ」
「図書なんだ」
「何か?」
「いや、紅茶じゃなくて水選ぶ人が図書なの、ちょっと納得した」
「どういう理屈ですの」
「静かな感じ」
「意味が分かりません」
「でも似合う」
「……」
エヴァは少しだけ黙った。
「そういう、ふいに変なことを言うの、やめてくださいません?」
「変だった?」
「変です」
「褒めたつもりなんだけど」
「なおさらたちが悪いですわ」
「そこまで言われるほどかな」
「ええ。少なくとも、急にそういうことを言われる側としては、だいぶ」
そこで止まる。
珍しく、言葉が切れた。
僕が見ていると、エヴァは不機嫌そうに目を逸らした。
その耳が、ほんの少しだけ赤かった気がしたのは、たぶん見間違いじゃない。
見間違いではないのだとしたら、僕は今、どういう顔をすればいいんだろう。
「恒一くん」
後ろから、ものすごく柔らかい声がした。
「何」
「今、ちょっと嬉しそうだった?」
「え?」
「いや、なんでもない」
なんでもない声ではなかった。
振り向くと、朱音がにこっと笑っていた。笑っている。だが、その笑顔の下に“今の会話、あとで詳しく確認するね”が埋まっているのを、僕は見逃さなかった。見逃せるほど鈍くない。鈍くないせいで疲れる。
係決めが終わり、今日のホームルームもようやく終盤に入る。
遠山先生が最後の連絡をしている間、僕は自分でも少しだけ不思議な気分になっていた。
昨日までは、エヴァは“鋭くて怖い隣席の留学生”だった。もちろん今日も鋭いし、たぶん普通に怖い。でも、それだけじゃない。意外とちゃんと見てくれるし、言い方はきついけれど的外れではない。むしろ的確すぎるくらいだ。
それは少し、安心する。
――いや、安心という言い方は違うか。
少なくとも、“この人とは会話が成立する”と思えるようになった。そこが大きい。
「はい、じゃあ今日はここまで。来週から教科の授業も始まるから、時間割ちゃんと見てねー」
解散の空気が広がる。
ざわざわと椅子が鳴る中で、僕はふとエヴァへ言った。
「さっき、助かった」
「何がですの」
「アプリの登録と、係の話」
「別に」
「いや、君いなかったらたぶん、もう少し長く悩んでた」
「それは見れば分かります」
「だから助かったんだって」
「……」
エヴァは一瞬だけ僕を見た。
「そんなに素直に礼を言われると、こちらの調子が狂いますわ」
「じゃあどう言えばよかった?」
「言わなくて結構です」
「それはさすがにひどくない?」
「ひどくありません」
「いやひどいだろ」
「ひどくても困りませんもの」
「そういうことを平然と言うよね、君」
少しだけ沈黙が落ちる。
そのあと、エヴァは机の上のペンを揃えながら、本当に何でもないことみたいに言った。
「……隣ですもの。そのくらいはしますわ」
「うん」
「だから、いちいち大げさに受け取らないでください」
「分かった」
「本当に分かっていますの?」
「たぶん」
「その“たぶん”が信用ならないのです」
「じゃあ訂正する」
「何に」
「ちゃんと分かった」
「……なら結構です」
ぶっきらぼうな言い方だった。
でもその一言の中に、昨日より確実に“隣の席”らしさがあった。
そしてそれを、朱音が見逃すはずもなかった。
教室を出る直前、彼女は僕の横へぴたりと並んで、いかにも軽い声で言う。
「恒一くん」
「何」
「エヴァさんと、だいぶ話すようになったね」
「そうかな」
「そうだよ」
「隣の席だし」
「……ふうん」
「その“ふうん”やめてくれない?」
「まだ何も言ってないよ?」
「言ってないのに嫌な予感だけする」
「気のせいじゃない?」
「そこは気のせいって言ってほしい」
「じゃあ半分くらい気のせい」
「半分は気のせいじゃないのか」
「さあ?」
駄目だ。
静かな青春、無理。
これはもう無理だ。
教室の中で少しずつ居場所ができていくのは、たしかにうれしい。
隣の席との会話が増えるのも、たぶん悪いことじゃない。
でも、そのたびに幼馴染の圧が増す仕様は聞いていない。
僕の高校生活は、たぶんこうやって少しずつ騒がしくなっていくのだろう。
いや、“少しずつ”で済めばいいのだが。
たぶん済まない。
それがいちばん問題だった。




