プロローグ 普通の高校生になるための、まったく普通じゃない前日
普通の高校生になるために必要なものは何か。
制服、通学鞄、上履き、筆記用具、学生証を入れる薄い財布。たぶんそのあたりだろう。少なくとも、僕――神代恒一はそう思っていた。
だが、目の前の長机に並べられているものを見る限り、どうやら僕の認識は甘かったらしい。
新しい制服一式。
県立筑波青葉高校の入学案内。
つくばエクスプレスの定期券。
市販のスマートフォンに偽装された緊急連絡端末。
骨伝導式の超小型通信機。
革靴の踵に仕込まれた位置情報発信装置。
名刺より薄い防刃プレート。
そして、なぜか防災ポーチにしか見えない顔で置かれている高機能救急キット。
どう見ても、普通の高校生の机ではない。
「……宗一郎」
僕が名前を呼ぶと、机の向こうに立っていた男は音もなく一礼した。
榊原宗一郎。神代家に代々仕える家臣筋の出であり、僕が物心つく前から教育係だの側近だの後見役だの、いろいろな名前で僕の人生に居座っている人物である。年齢は三十代半ばだが、顔つきが隙なく整いすぎていて、たまに年齢不詳の執事みたいに見える。実際、やっていることもだいたい執事だ。
「はい、恒一様」
「高校入学って、こんなに命懸けだったっけ」
「恒一様の場合は、命懸けでないと困ります」
「困るんだ」
「非常に」
即答だった。
春のやわらかい日差しが障子越しに差し込む広い和室で、宗一郎だけが妙に冷静である。僕は畳に座ったまま、もう一度机の上を見た。
「これ、本当に全部必要?」
「必要です」
「普通の高校生は、防刃プレートを持ち歩かない」
「普通の高校生は、極秘の生活研修として茨城県つくば市の県立高校に入学しません」
「そこをなんとか普通側に寄せていくのが、今回の主旨なんだけど」
「主旨と安全は両立しません」
「教育係の言葉じゃないな、それ」
宗一郎はまばたき一つしなかった。
僕は小さくため息をつく。
そもそもの話、なぜここまで大げさになっているのかと言えば、原因は僕にある。
国家の中枢に連なる高位の家に生まれた人間として、僕は幼い頃から、それなりに特別な教育を受けてきた。歴史、政治、外国語、礼法、護身術。人の前でどう立ち、どう笑い、どう沈黙するか。誰とどう距離を取るべきか。そういうことは、意識するより先に体へ叩き込まれている。
けれど、その“それなりに特別”な人生の中で、僕はずっと別のものに憧れていた。
普通の高校生活。
朝、電車に乗って学校へ行って。
友達とくだらない話をして。
授業中に眠くなって。
放課後、寄り道して。
文化祭で騒いで、試験前だけ慌てて、恋だの進路だので悩む。
そういう、ごく当たり前の三年間。
その希望を、何度も何度も頭を下げて、理屈を並べて、ようやくもぎ取ったのが今回の“県立筑波青葉高校への進学”だった。都内ではなく、つくば市。研究学園都市であり、外から来た人間も比較的珍しくない町。国際色もある。少し育ちの良さそうな生徒や、海外絡みの家庭事情を持つ子どもがいても、東京ほど過剰に目立たない。
僕の立場を徹底的に隠したうえで、“神代恒一”という一人の高校生として過ごすには、かなり理想的な場所だった。
だからこそ、絶対に失敗できない。
失敗したら――正体が露見したら、その瞬間に計画は終了だ。
「確認いたします」
宗一郎が一枚の書類を取り上げ、読み上げる態勢に入った。もうこの時点で嫌な予感しかしない。
「神代恒一。十六歳。茨城県つくば市在住」
「はい」
「現在は、つくば市内の後見人宅から県立筑波青葉高校へ通学する予定」
「はい」
「ご両親は長期海外勤務中」
「その設定、今でも若干胸が痛むんだけど」
「設定に胸を痛める余裕は不要です」
「容赦がない」
宗一郎は淡々と続けた。
「家族構成に関する質問には、必要最小限で答えてください。親族の職業・役職・交友関係に言及しないこと。自宅周辺環境の詳細を述べないこと。幼少期の教育歴についても曖昧にしてください」
「それ全部、“会話するな”って意味じゃない?」
「極めて正確な理解です」
「高校生活に向いてないなあ」
思わず本音が漏れた。
高校生活というのは、もっとこう、自然発生的に“昨日テレビ見た?”とか“あそこのコンビニのパン美味いよな”みたいな話をする場だと思っていたのだが、今の僕にはすべての会話に機密保持条項がついているようなものだ。
「なお、もっとも危険なのは雑談です」
「やっぱりそうなんだ」
「人は気を抜いた時ほど素性が出ます」
「宗一郎、たまに先生っぽいこと言うよね」
「私はずっと先生のようなものですが」
「認めたくないな……」
宗一郎はそれを無視して、次の書類へ手を伸ばした。
「続いて、入学式当日の動線です」
「来た」
僕は身構えた。
「車での正門前送迎は却下されました」
「当然だね」
「研究学園駅付近までの送迎後、そこから徒歩という案も却下」
「よかった」
「代替案として、朝の時間帯をずらしたうえでつくばエクスプレス利用」
「いいじゃないか」
「ただし私服警護三名を半径五十メートル圏内に配置」
「多い」
「三名です」
「普通の高校生の周囲にはいない数だよ」
「恒一様の周囲には必要です」
「そこを削っていく話を今してるんだけど」
「削りました」
「削った結果が三名?」
「当初は八名でした」
僕は無言になった。
それはもう護衛ではなく、ちょっとした包囲網ではないか。
「……宗一郎」
「はい」
「君たち、僕に本当に高校生活をさせる気ある?」
「ございます」
「まったく感じられない」
「だからこそ、最大限の譲歩をしております」
「怖いなあ、その言い回し」
僕が頭を抱えかけたところで、障子の向こうから、こつこつと軽い足音が近づいてきた。
「失礼します」
凛とした女の声とともに、障子が開く。
入ってきたのは、一人の少女だった。
長い黒髪を高めの位置でまとめ、目元は涼やかで、全体の印象は清楚そのもの。県立筑波青葉高校の新しい制服に身を包み、ぱっと見には“よく似合っている美少女”でしかない。
ぱっと見には。
「朱音」
「おはよう、恒一くん」
にこっと笑った彼女――柊原朱音は、僕の幼馴染である。
表向きは。
実際には、神代家に代々仕える忍びの家系の娘であり、幼少期から古武術、護衛術、潜入術、その他いろいろ物騒なものを叩き込まれてきた、僕の専属護衛に近い存在だ。本人は“補佐役”を名乗っているが、どう考えても八割くらい監視役である。
しかも、最近はそこにさらに別の要素――つまり、僕への好意が明らかに混じっていて、状況をいっそう面倒にしている。
「どう? 制服、変じゃないかな」
「制服は似合ってる」
「制服“は”?」
「言い方が悪かった。似合ってるよ」
「ふふ、ならよかった」
朱音は満足そうに笑い、そのまま自然な動きで僕の横に座った。さも昔からそうしているみたいに距離が近い。いや、昔からそうしているのは事実なのだが、高校入学を前にして改めて見ると、これが普通かどうかはかなり怪しい。
宗一郎が一礼する。
「朱音さん、ちょうどよいところへ」
「通学経路の最終確認でしょ? 聞いてたよ」
「聞いてたの?」
「外で」
さらりと言うな。
「恒一くん、心配しなくて大丈夫。わたしも一緒に行くから」
「それが一番心配なんだけど」
「どうして?」
「どうしてって……幼馴染が毎朝ぴったり同行してきたら、距離感が近すぎない?」
「幼馴染なんだから近くていいでしょ?」
「よくない時もある」
「わたしはいつでもよくない?」
「言い方」
朱音は小首をかしげた。無垢な顔でそんなことを言うから困る。
宗一郎がすかさず口を挟む。
「私としては、朱音さんが一般生徒として自然に同伴する案が最も合理的と考えております」
「やめて」
「護衛対象と同学年・同校・顔見知り。極めて理想的です」
「高校生活としては理想的じゃないんだよ」
「そうかな?」
朱音が楽しそうに僕を覗き込む。
「わたし、ちゃんと“ただの幼馴染”として振る舞うよ?」
「それが一番怪しい」
「失礼だなあ」
彼女は笑顔のまま言った。
「でも安心して。恒一くんの前では、なるべく忍ばないようにするから」
「前では、って何」
「見えないところでは多少」
「駄目だって言ってるんだよ」
つくば市の県立高校で、普通の青春を送る。
その理想は、どうやら入学前日から足元が怪しくなってきた。
朱音は机の上の入学案内を手に取り、ぱらぱらとめくった。
「いい学校そうだよね、筑波青葉」
「うん」
「研究学園駅からもそこそこ近いし、国際交流プログラムもあるし、部活も普通に強いところあるし」
「よく調べてるね」
「任務だから」
即答だった。
「……任務だから、か」
「うん。任務だから」
「二回言わなくていいよ」
「任務だけど?」
その一言の最後に、かすかに別の感情が混じる。朱音はいつもそうだ。忠誠を前に出すときほど、その奥にあるものが透ける。
僕が微妙に返答に困っていると、宗一郎が手元の資料を整えた。
「では朱音さんも含め、最終調整に入ります」
「最終調整……」
「第一項。恒一様は、入学式において壇上関係者に対し過度に整った礼をしないこと」
「そんなに?」
「学校長、教頭、来賓に対してあまりにも自然な角度で会釈をされると、まず目立ちます」
「礼が上手いだけで目立つ世界なんだな、高校って」
「普通の高校一年生男子は、そこまで洗練されておりません」
「普通の高校一年生男子に謝って」
宗一郎は続ける。
「第二項。初対面の同級生女子に対して、無意識に車道側へ回る、扉を先に押さえる、椅子を引く等の動作は禁止」
「そんなにやってる?」
「やります」
「やるね」
朱音がにこにこと頷いた。
「小さい頃からそうだもんね、恒一くん」
「やめて、成長の証みたいに言わないで」
「優しいのはいいことだよ?」
「高校ではちょっと変なんだって」
「じゃあ、わたしが先に車道側歩くね」
「論点そこじゃない」
「第三項」
宗一郎は一切ブレない。
「氏名を呼ばれた際、反射的に背筋を正しすぎないこと」
「それ、そんなに出る?」
「出ます」
「出る出る」
朱音がまた頷く。
「あと、ありがとうって言われた時に、ちょっとだけ“大丈夫です”の発音が上品」
「細かいなあ……!」
僕は思わず畳に倒れ込みたくなった。
普通の高校生活というのは、どうしてこんなにも難しいのだろう。
黙って座っていても“育ち”がにじみ出る。歩き方、返事、視線、会釈、物の受け取り方。全部に対して監修が入る。アイドルデビュー前の振り付け確認でもしている気分だった。
すると、朱音がふいに真面目な顔になる。
「でも、ほんとに大丈夫?」
「何が?」
「つくばの高校、楽しみなんでしょ」
「楽しみだよ」
「だったら、変に我慢しすぎなくていいからね」
その声色だけは、いつもの軽さが少し薄かった。
「恒一くんは、普通でいようとするときほど、頑張りすぎるから」
言われて、少しだけ言葉に詰まる。
確かにその通りだった。
僕にとって“普通”は、何もしなくてもできるものじゃない。人並みに崩すこと。自然に見せること。余計な気配を消すこと。そういうのは全部、意識して努力しないとたどり着けない。
けれど、努力している時点で、たぶんもう普通ではないのだ。
宗一郎も珍しく反論しなかった。代わりに、低い声で言う。
「我々が最も危惧しているのは、恒一様が普通に振る舞うことではなく、“普通でなければならない”と自分を追い詰めることです」
「宗一郎がそんな優しいこと言うんだ」
「本来、言いたくはありません」
「そこは最後まで厳しいんだね」
少しだけ笑うと、場の空気がやわらいだ。
朱音が机の上にあった通学定期券を指先でつまむ。
「ねえ、ほんとに明日は電車で行くの?」
「そのつもり」
「ちょっとわくわくしてる?」
「かなり」
「ふふ。分かりやすいなあ」
当然だろう。僕にとっては、つくばエクスプレスに学生の顔で乗ること自体が、すでにかなりのイベントだ。駅前の空気も、改札を抜ける感じも、全部が初めてに近い。
研究学園駅から歩くのか、つくば駅からバスなのか、自転車通学の生徒はどんなふうに走ってくるのか。そういう、世間ではどうでもいいことの一つ一つが、僕には妙に眩しかった。
「じゃあ、わたしも一緒にわくわくしていい?」
「任務じゃなく?」
「……半分は任務」
「残り半分は」
「幼馴染の特権」
さらりと返された。
僕が何か言い返す前に、宗一郎が咳払いをひとつする。
「話を戻します。明日の座席表ですが、事前情報によれば、恒一様の席は一年A組、窓側から二列目の後方」
「へえ」
「周囲の生徒情報は現在収集中です」
「やめてよ」
「やめられません」
「隣の席の子まで調べてる?」
「最低限は」
「最低限で隣の席の調査が入るんだ」
「当然です」
「当然じゃないよ」
朱音がちらりと宗一郎を見る。
「女の子?」
「現時点の予定では、女子生徒です」
「へえ」
「その“へえ”やめて」
「別に何も言ってないよ?」
「圧が出てる」
朱音はにっこり笑った。怖い。
「恒一くんの隣、いい人だといいね」
「願わくば普通の人がいい」
「普通、ねえ」
「その微妙な間は何」
「いや、恒一くんの“普通”って、結構ハードル高いから」
「そんなことない」
「あるよ。だって恒一くん、初対面の相手にも無意識で相手を立てちゃうもん」
「いいことじゃない?」
「恋愛ラブコメ的には強すぎるかな」
「なんでそこでジャンルを定めるの」
笑いながらも、胸の奥では少しだけ緊張が膨らんでいた。
明日から、僕は本当に高校生になる。
神代家の者ではなく、肩書きのある誰かでもなく、ただの“神代恒一”として。
もちろん、それが完全な意味で可能だとは思っていない。背後には宗一郎たちがいて、朱音もいる。家の事情も責任も、明日から消えるわけではない。それでも、教室の中だけでも、自分の名前が自分のために呼ばれる時間が欲しかった。
そのためなら、多少の面倒には耐えられる。……たぶん。
「最後に、もっとも重要な事項を」
宗一郎が厳かな調子で言った。
「入学式会場において、来賓挨拶その他に見覚えのある人物がいたとしても、決して反応しないこと」
「それはもちろん」
「目線を止めない」
「もちろん」
「会釈を返さない」
「返さない」
「万が一、向こうから何らかの反応があった場合」
「その時は?」
「全力で気づかないふりをしてください」
「教育係の台詞じゃないなあ」
「明日だけは、そうしていただきます」
宗一郎の声は珍しく少しだけ低かった。
たぶん、本当にそこが一番危ないのだろう。
つくば市の県立高校の入学式に、僕の正体を知るような大人が来る可能性は低い。低いけれど、ゼロではない。世の中には、僕が思っている以上に世界が狭い場所がある。
そういうものすべてをすり抜けて、僕は教室へたどり着かなければならない。
「分かったよ」
僕は姿勢を正し、宗一郎を見る。
「明日から僕は、ただの高校一年生だ」
「はい」
「茨城県つくば市在住、県立筑波青葉高校一年A組の神代恒一」
「はい」
「朝は電車で通って、教室で席に座って、先生に怒られて、たぶん友達ができて、たぶん面倒ごとも起きる」
「でしょうね」
「でも、それでいい」
口にしてみると、思ったより落ち着いた声だった。
「一度くらい、ちゃんと普通に生きてみたい」
宗一郎はしばらく黙っていた。
やがて、いつものように隙のない一礼をする。
「承知いたしました。では我々は、全力で恒一様の“普通”を支えます」
「その言い方、支えるっていうより包囲するに近いんだけど」
「意味としては近いです」
「正直なんだよなあ」
朱音がくすっと笑う。
「大丈夫だよ、恒一くん」
「何が?」
「明日、きっと楽しいよ」
「そうかな」
「うん」
彼女は少しだけ表情をやわらげて言った。
「だって、ずっと行きたかった場所でしょ」
その一言だけで、胸の奥が少し熱くなった。
ああ、そうだ。
ずっと行きたかった。
誰かに用意された場ではなく、自分で手を伸ばして掴んだ場所へ。
神代家の者としてではなく、神代恒一として。
障子の外では、春の風が庭木を揺らしている。
空は高く、明日の天気はよさそうだった。
きっと明日は、いい日になる。
そう思った、その時だった。
宗一郎の携帯端末が、小さく震えた。
彼は一瞬だけ画面を確認し、わずかに眉を寄せる。宗一郎が眉を動かすのは、だいたい面倒ごとの前触れだ。
「……どうしたの」
「報告です」
「嫌な予感しかしない」
「県立筑波青葉高校一年A組、恒一様の隣席予定者について、追加情報が入りました」
「だからそういうのを調べるなって」
「オランダからの留学生だそうです」
「へえ」
「氏名は、エヴァ・ファン・オルデンブルク」
朱音の笑顔が止まった。
ほんの一瞬だけ、本当にほんの一瞬だけ、部屋の空気がしんと冷える。
「……女の子なんだ」
「らしいね」
「ふうん」
「朱音?」
「ううん、なんでもないよ?」
笑っている。笑っているのに、なぜだろう。庭の気温が三度くらい下がった気がする。
宗一郎は資料を見たまま続ける。
「国際交流枠での編入に近い形式ですが、年齢は同じ、入学時期も同一。手続き上は新入生として扱われます」
「珍しいね」
「ええ。かなり」
「……宗一郎」
「はい」
「その“かなり”って何」
「いえ、少々経歴が整いすぎております」
「整いすぎてる?」
「詳細はまだ不明です」
宗一郎がそう言う時は、だいたい面倒な意味で不明だ。
朱音が、相変わらずやわらかい声で尋ねる。
「恒一くんの隣なんだよね?」
「予定では」
「ふうん。そっかあ」
にこり。
怖い。やっぱり怖い。
僕は反射的に話題を変えた。
「と、とにかく! 明日は入学式だ。変なことが起きなければ、それでいい」
「変なこと」
朱音が繰り返す。
「例えば?」
「例えば……来賓に知ってる人がいるとか、護衛が目立つとか、隣の席の子がやたら鋭いとか」
「へえ」
「だからその“へえ”やめて」
宗一郎が静かに告げる。
「恒一様」
「何」
「残念ながら、その三つはすべて起こりうると想定しております」
「最悪だな」
僕の“普通の高校生活”は、どうやら開幕前から綱渡りらしい。
それでも。
それでもきっと、明日、校門をくぐる時には胸が高鳴るのだろう。
つくば市の県立高校。
初めての教室。
知らない同級生たち。
隣の席の、少しだけ厄介そうな留学生。
そして、たぶんずっと近すぎる幼馴染。
静かな青春を始めるはずだった。
その予定が、たぶんもう怪しいことに、僕だけがまだ本気で気づいていなかった。




