6.本に囲まれて
ここは王都の図書塔
古い石造りの建物は昼下がりの柔らかな光に満たされていた
人の気配は少なく、紙と埃の匂いが支配する場所
この雰囲気をレティシアは大変気に入っていた
(……落ち着く)
分厚い本を胸に抱え、窓際の席に腰を下ろす
この席は、本を読んでいて目が疲れたとき、窓の外に広がる美しい景色へと視線を逃がせるので、私はよくここに座っている
この場所は社交も、視線も、評価もない世界
本来なら
「ここにいましたか」
静けさを破る様に、低い声が背後から聞こえた
予期せぬ声に、肩が跳ねる
「ル、ルーヴェンシュタイン様……?」
振り向くと、彼は当然のようにそこに立っていた
外套を脱ぎ、書架の影に溶け込む姿は、まるで最初からここに属しているかのようだった
「どうして……?」
「貴女が来そうだと思いまして」
それだけで説明を終える
疑問に思うべきなのに、なぜか納得してしまう自分がいる
「この図書塔は、静かでいいですね」
彼はそう言って、向かいの席に座る
距離が近い、けれど、近づきすぎない
その絶妙な距離で逃げ道をそっと塞いでいく
「その書物、ずいぶん古いですね」
低く穏やかな声
「はい、塔の蔵書でも、とりわけ古いものだそうです」
言葉少なに、ページをめくる
声が小さくなるのは、この静けさに気圧されているせいだけではない
「挿絵も美しいですね」
ルーヴェンシュタイン様の指先が、細やかな線をなぞる
触れそうで、触れない距離
その距離に少し緊張が走る
「色もあせていません」
ルーヴェンシュタイン様は気にした様子もなく話し続ける
静かなやり取りが続く
塔の奥で、静かにページをめくる時間
心は自然と落ち着いて、緊張はいつの間にか無くなっていた
互いに微笑むでもなく、視線を交わすでもない
時折、ルーヴェンシュタイン様が小さな疑問を零し、私がそれに答える
そんな、何気ないやり取りが、心地よいリズムになっていた
いつもは1人で過ごしているこの図書塔で今日は目の前にルーヴェンシュタイン様がいる
最近、よく顔を合わせるようになった彼とのこの不思議な関係は、一体何なのだろう
友と呼んでしまってもいいのだろうか?
憧れていた読み友とは、こういうものなのだろうか?
そんなことを考えながら、静かな午後は、図書塔の空間に溶けるように、ゆっくりと流れていった




