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策略家の彼とポッチャリな私〜重い愛を乗せて〜  作者: 紫煙 くゆり


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4.偶然のこちら側


夜会から数日後、私は王都の一角にある本屋を訪れていた

午後の陽光が大きな硝子窓から差し込み、埃を含んだ光の筋が整然と並ぶ書棚の間を柔らかく漂っている

静寂の中、紙とインクの匂いが心を落ち着かせてくれた


お気に入りの詩集を求め、指先で背表紙をなぞりながらゆっくりと歩く


その時、ふと視線の先に見覚えのある人影が映り込んだ


一瞬、時が止まったように感じる


驚きとともに、胸の奥がかすかにざわめいた


「……ルーヴェンシュタイン様?」


思わず零れた小さな呟き

彼はそれを聞き取ったのか、あるいは視線に気づいたのか、ゆっくりとこちらを振り返る

そして、あの夜会で見せたのと同じ穏やかで柔らかな微笑みを浮かべた


「ヴァルグレイヴ嬢

こんなところで、またお会いするとは」


私は慌てて頷き、手にしていた詩集を胸元に抱き寄せる


「えっと……こんにちは」


周囲の静けさを壊さぬよう、声をひそめて挨拶を返す

夜会での出来事が不意に脳裏をよぎり、心臓が小さく跳ねる

自分でもわかるほど、頬に熱が集まっていくのを感じた


「少し時間が空きまして

暇つぶしの本でも買おうかと立ち寄ったのです」


そう言って彼は、棚に並ぶ書物へ視線を向ける


「“偶然”とは面白いものですね

よろしければ……少し一緒に見て回りませんか」


柔らかな声音と、拒む隙のない微笑みに、気づけば私は小さく頷いていた


並んで棚の間を歩く

肩が触れそうで触れない距離

足音さえ控えめになるほどの静かな空間で、彼は時折、思いついたように声をかけてくる


「この詩集は、もうお読みになりましたか」

「こちらの物語、表紙の雰囲気が気になりませんか」


他愛のない、本当に日常的な会話

それなのに、不意に絡む視線に胸が高鳴り、言葉の合間に流れる沈黙さえ、どこか心地よい


「……この本は面白そうですね、ヴァルグレイヴ嬢」


そう言って差し出された一冊を見つめながら、私は小さく微笑む

棚に囲まれた小さな空間に、まるで世界から切り取られたような、二人だけの静かな時間が広がっていた

胸に灯る心地よい緊張と、ほんの少しの期待が入り混じった時間


空が茜色に染まり、帰る時間が刻々と過ぎる

もう少しだけこの時間が続けばいいのにと、そんな事を思ってしまった自分に疑問を抱きながら

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