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第8話:誰も原因を知らない

城下町は、見た目はいつも通りの朝を迎えていた。

だが、リリエルの目には、小さな異常がいくつも映っていた。

商店の魔力の揺らぎ、井戸の水面の微かな濁り、道端に落ちた葉の向き――

すべてが、ほんのわずかに正常な秩序からずれていた。


人々はそれに気づかない。

「なんだか、今日はおかしいな……」

子供が小さな声で呟くが、親は気にも留めない。

日常の延長の中に、異常は溶け込み、誰もその兆候を認識できない。


城では、カインが机に突っ伏している。

書類は整然としており、数字上は何も問題がない。

だが、胸の奥では、何かが確実に狂っている感覚が消えない。

「……この異変、聖女を追放したせいか?」

呟いても、誰も答えてくれない。

後悔が膨れ上がり、焦燥が体を震わせる。


騎士団長レオンハルトもまた、窓越しに街を見下ろす。

人々の歩くリズム、声の張り、街灯の魔力の揺らぎ。

数値には出ない異常。

焦りと苛立ちが胸に溜まる。

何かを、誰かを、救うべきなのに……

それができない無力感が、彼の心を締め付ける。


リリエルは街角の古井戸に近づき、手を差し伸べた。

微かに濁った水面に、指先から魔力を流し込む。

水面は小さく揺れ、次第に清らかさを取り戻す。

人々にはその変化が分からない。

だが、確実に世界は整えられている――静かに、確実に。


「まだ、間に合う……」

小さな呟きは風に乗り、街全体にかすかに広がる。

誰も気づかない。

しかし、リリエルの存在が、世界の秩序を支えていた。

彼女の静かな救済行動は、異変が積み重なる前に、少しずつ歪みを修復していく。


遠くで瓦が小さく揺れ、鳥の声がひと声響く。

微かな光が水面に反射し、街の空気を揺らす。

リリエルは深呼吸をひとつして、歩みを進めた。

街の人々が日常を送る背後で、静かな聖女の手は、今日も確実に世界を守っていた。


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