第4話:祝福が薄れる
城下町の朝は、いつもより少し静かだった。
通りを歩く人々の足取りは軽くない。笑い声も、いつものような弾力がなく、どこか薄く感じられる。
リリエルは城の外から町を見渡し、微かな違和感を察した。
数字には現れない、魔力の僅かな揺らぎ。回復の奇跡がわずかに弱まっていること。
祝福――それは、少しずつ、だが確実に薄れていた。
「魔力の流れが、変だ……」
彼女は心の中で呟き、視線を通り過ぎる人々に送る。
誰も気づかない。だが、確実に、世界は少しずつ歪み始めていた。
城内では、カインが書類に目を落としている。
「これで……本当にいいのか」
低く呟いた言葉は、彼自身への問いでもある。
数値だけを頼りに聖女を追放した判断。正しかったのか――
胸の奥で焦燥が燃え、言葉にならない後悔が溢れそうになる。
だが、周囲は静かだ。誰も助けてくれない。
騎士団長レオンハルトは、肩を落としながら城下町を見下ろす。
「……何かがおかしい」
目に映る街の人々。子供の遊ぶ声がわずかに鈍く、薬草店の匂いもいつもと違う。
違和感は確かに存在する。
だが、原因はわからない。わかろうともしない者たち。
リリエルは歩みを止めず、静かに町を進む。
石畳の冷たさが足に伝わり、風が髪を揺らす。
遠くで瓦が揺れ、鳥がひと声鳴く。
微かにずれた世界のリズムを、彼女はひとつひとつ感じ取る。
「誰も気づかない……でも、私が知っている」
その言葉は胸の奥で静かに震える。
人々が笑っていても、子供が遊んでいても、世界の微かな狂いは止まらない。
それを止められるのは、ただひとり――聖女だけだった。
リリエルは町の中心にある噴水の前で立ち止まる。
水面は微かに揺れ、反射する光がまるで小さな異変の兆しを告げているようだった。
彼女は手を水面にかざし、静かに息をつく。
「まだ、間に合う……」
誰も気づかぬ中で、世界を守るための静かな歩みが、この日も始まった。




