第24話:聖女の奇跡
瓦が崩れ、井戸の水は泡立ち、街灯の光は不規則に瞬く。
街全体が崩壊寸前の緊張感に包まれていた。
人々の足取りは鈍く、表情は硬く、笑顔は消えかけている。
子供たちは怯え、親は理由も分からず何もできない。
世界は、確実に崩れかけていた――しかし、まだ終わりではなかった。
街角に立つリリエルが手をかざすと、濁った井戸の水はゆっくりと清らかさを取り戻す。
商店の魔力は安定し、街灯の光は光を取り戻す。
瓦が落ちる音は残るが、人々の命を脅かす破壊は、彼女の魔力により最小限に抑えられる。
誰も気づかない。しかし、確実に世界は救われていた――静かに、しかし決定的に。
城内のカインは額に手を当て、声を震わせる。
「聖女……俺たちは……完全に間違っていた……」
数字上は正しい判断をしたつもりだった。
しかし目の前の光景が、彼の判断の無力さを痛感させる。
焦燥と苛立ちは後悔に変わり、体全体を締め付けた。
レオンハルトもバルコニーから街を見下ろす。
「聖女……これが……」
微細な異常が消え、人々が安心して歩き始める。
潜在意識の奥底で、彼は初めて理解する――
目の前に立つ聖女こそが、この街と世界を救う唯一の希望であることを。
街の人々は徐々に日常を取り戻す。
瓦の落下は止まり、井戸の水は清らかに澄み、街灯は安定した光を放つ。
風は柔らかく通り抜け、街全体が息を吹き返したかのように穏やかに揺れる。
リリエルの魔力は街全体に広がり、崩壊の波を押し返した。
勇者たちはその場で、自らの愚かさを痛感する。
だが、怒りや苛立ちではなく、静かな尊敬と畏怖に変わった。
街は救われた。
世界は、聖女の静かなる奇跡によって繋がれた。
そして、カインとレオンハルトは深く息をつき、静かに頭を垂れる。
目の前の聖女は微笑みもせず、ただ静かに街を守り続ける。
その背中に、世界の未来が確実に託されていた――




