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第23話:絶望の街

街全体に異変が渦巻き、瓦は次々と崩れ落ち、井戸の水は泡立ち、街灯は不規則に瞬く。

人々の足取りは鈍く、表情は硬く、笑顔は完全に消え、子供たちは恐怖に凍りついている。

親たちは理由も分からず怯え、何もできない自分を責めた。

世界は、確実に崩れかけていた。


城内のカインは机に突っ伏し、額に手を当てて呻いた。

「聖女……追放した俺たちは、何をしてしまったんだ……」

数字上の異常はゼロ。しかし、胸の奥に押し寄せる焦燥感と苛立ちは、理屈では抑えきれない。

正しいと思った判断が、目の前の崩壊を止められない無力感を痛感させる。


レオンハルトもまた、城のバルコニーから街を見下ろし、眉をひそめる。

歩く人々のリズム、商店の魔力の揺らぎ、街灯の瞬き――

すべてが微妙に狂い、数値には表れない異常が確かに存在する。

「聖女……まだ間に合うのか」

無意識に視線が街角のリリエルに向かう。

直接的には気づかない。しかし、街の異変を止める鍵が目の前にあることを、潜在意識で理解しかけていた。


街角ではリリエルが立ち止まり、微かな魔力を指先に集める。

濁った井戸の水はゆっくりと清らかさを取り戻し、商店の魔力は安定する。

街灯は光を取り戻し、瞬きは消える。

瓦の落下は止まらないが、被害を最小限に抑え、街の人々を守る力となる。

誰も気づかない。

しかし、世界は確実に救われていく――静かに、決定的に。


街の風は冷たく吹き抜け、瓦や街灯の光、水面の波紋が一層激しさを増す。

日常を送る人々の背後で、聖女の手は今日も世界を守り続けていた。

誰も気づかない。しかし、この静かな救済こそが、街と世界の未来を繋ぐ唯一の力であった。


カインとレオンハルトの焦燥は頂点に達する。

だが、潜在意識の奥底で、二人は初めて理解する――

目の前に立つ聖女こそが、この街と世界を救う唯一の希望であることを。


そして、リリエルの魔力が街全体に広がり、崩壊の波を静かに押し返し始めた。

瓦は微かに揺れ続けるが、人々の命を脅かす破壊は止められていた。

聖女の存在が、世界を守る静かな奇跡となって形を現し始めた瞬間だった。


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