第21話:崩壊の兆し
街全体に異変が広がり、空気は張り詰めた緊張で揺れていた。
瓦は次々とずれ、井戸の水は濁り、街灯は点滅し、魔力の乱れが目に見える形で街を覆っている。
歩く人々の足取りは重く、表情は曇り、笑顔は消えかけていた。
通りを歩く子供たちも、何かに怯えるように遊びを止め、親は理由も分からず不安そうに見回す。
城内ではカインが額に手を当て、息を荒げる。
「聖女……俺たちは……何をしてしまったんだ……」
数字上の異常はゼロ。しかし、胸の奥に押し寄せる焦燥感と苛立ちは、理屈では抑えられない。
正しいと思った判断が、街と世界を狂わせていた現実を、彼は痛感する。
レオンハルトもまた、城のバルコニーから街を見下ろし、眉をひそめる。
歩く人々のリズム、商店の魔力の揺らぎ、街灯の瞬き。
数値では表れない異常が、確かに存在する。
「聖女……まだ間に合うのか」
無意識に視線が街角に立つリリエルに向く。
直接的には気づかない。しかし、街の異変を止める鍵が目の前にあることを、潜在意識の底で理解しかけていた。
街角ではリリエルが立ち止まり、微かな魔力を指先に集める。
濁った井戸の水はゆっくりと清らかさを取り戻し、商店の魔力は安定する。
街灯は光を取り戻し、瞬きは消える。
誰もその変化には気づかない。
しかし、世界は確実に救われていく――静かに、しかし決定的に。
瓦が崩れ、水面が大きく揺れ、風が冷たく通り抜ける。
街の人々が日常を送る背後で、聖女の手は今日も世界を守り続ける。
誰も気づかない。しかし、この静かな救済こそが、街と世界の未来を繋ぐ唯一の力であった。
そして、カインとレオンハルトは潜在意識の奥底で、目の前に立つ聖女こそが世界を救う希望であることを、初めて理解しはじめる――




