表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/28

第2話:「聖女はいらない」

城門の外、石畳に足を下ろすと、冷たい朝の風が頬を撫でた。

リリエルの長い髪がゆっくりと揺れる。静かな街の広場は、まだ人影も少なく、空気は清々しい。

だが、その空気の奥に、わずかな違和感が漂っているのを彼女は感じ取った。


「……もう、聖女はいらないんだよ」

カインの声は小さく、しかし城内に響き渡る。

その言葉の裏に、焦燥や迷いが隠れていることも、リリエルには分かる。

だが、彼が出した結論は揺らがない。

世界の命運を左右する聖女を、平然と追放する決定――


人々は数字だけを見ている。魔力の測定値、加護の強さ、回復力の高さ。

だが、世界の微細な歪みは数字では測れない。

小さな狂い、予兆、微かな衰退――

それらを察知するのは、聖女だけだった。


城を離れたリリエルは、風に乗る埃の匂い、遠くで鳴く鳥の声、石畳に映る淡い光に注意を払いながら歩く。

足音は静かだが、彼女が歩くたびに、街の空気が微かに震える。

誰もその震えに気づかない。

世界は、あまりにも静かに、しかし確実に崩れ始めていた。


街路を歩く人々の表情は、どこか落ち着かない。

知らず知らずに、目線は遠くを探すように泳ぐ。

魔力の流れが少し変化したことに、体は敏感に反応するのだ。

だが、誰も理由を知らない。

すべては――聖女が追放されたせいだということを。


リリエルは人々に目を向けながら、静かに歩みを進める。

足取りは軽く、だが胸の奥では世界の変化を感じ取り、警戒を解かない。

「誰も気づかない。だけど、私は知っている」

心の中でそう呟き、彼女は街を見渡す。


遠くで瓦が揺れる音。微かに傾いた噴水の水面。

小さな異変は、確実に広がっていた。

リリエルの視線が、街の奥深くまで届く。

そこには、まだ誰も気づかない、小さな異変の連鎖があった。


そして、彼女は知っている――

追放した者たちが、この異変をどう扱うか。

焦燥に駆られ、慌てふためく姿。

しかし、もう遅い。

世界は静かに、壊れ始めているのだ。


リリエルは歩みを止めず、ただ前を見据えた。

冷たい風に身を包まれながら、誰にも気づかれず、世界を守るための静かな行動を開始する。

この日から、世界の運命は、聖女の手の中で密かに動き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ