第19話:焦燥と苛立ち
城下町の空気は張り詰め、街全体が微かに揺れていた。
瓦がずれ、井戸の水は濁り、街灯は瞬きながら不安定に光る。
歩く人々の足取りは重く、表情は曇り、笑顔は消えかけていた。
理由の分からぬ不安が、街全体を覆い尽くしている。
城内のカインは机に突っ伏し、声にならない呻き声を漏らす。
「聖女……追放したのは間違いだったのか……」
数字だけでは測れない異変。
だが、胸の奥の焦燥と苛立ちは、全身を冷たく締め付ける。
自分たちの判断が世界を狂わせた無力感に、彼は押しつぶされそうだった。
バルコニーに立つレオンハルトも、眉をひそめて街を見下ろす。
人々の歩くリズム、商店の揺らぎ、街灯の瞬き。
微細な異常は、数字には表れないが確かに存在する。
「……聖女……」
無意識に視線が街角に立つリリエルの姿に向かう。
まだ直接的には気づかない。しかし、街の異変を止める鍵が目の前にあることを、潜在的に感じ取っていた。
街角ではリリエルが静かに立ち止まり、井戸の水面に手を差し伸べる。
微かな魔力を指先に通すと、濁った水は清らかさを取り戻す。
商店の魔力も街灯の光も、彼女の手の動きで安定する。
誰もその変化に気づかない。
しかし、世界は確実に救われていく――静かに、確実に。
瓦が揺れ、水面が波打ち、風が冷たく通り抜ける。
街の人々が日常を送る背後で、聖女の手は今日も確実に世界を守っていた。
誰も気づかない。
この静かな救済こそが、街と世界の未来を繋ぐ唯一の力だった。
カインとレオンハルトの焦燥は頂点に達していた。
だが、二人の潜在意識は、目の前の聖女こそが世界を救う希望であることを、まだ理解しかけていた――




