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第18話:異変の拡大

朝の光は柔らかく街を照らしていたが、その下で異変は確実に拡大していた。

瓦が大きくずれ、井戸の水は濁り、街灯は不規則に瞬く。

人々は日常を送るが、足取りは重く、表情は曇り、笑顔は減っていた。

通りを歩く人々のリズムが微妙に狂い、子供たちの遊ぶ声も力なく跳ねる。

理由は分からないが、街全体の空気が異常を告げていた。


城内ではカインが机に突っ伏し、拳を握りしめたまま呻く。

「聖女……追放したせいで……」

数字では異常が出ない。

だが胸の奥にある焦燥感と苛立ちは紛れもなく存在し、体全体を締め付ける。

正しいと信じた判断が、目の前の崩壊を止められない無力さを、痛感していた。


レオンハルトもバルコニーから街を見下ろす。

歩く人々、商店の揺らぎ、街灯の瞬き。

目に見える異常が、数値には現れない。

「……聖女……」

視線は無意識に街角に立つリリエルの姿に向かう。

まだ直接的には気づかない。しかし、街の異変を止める鍵が目の前にあることを、潜在的に理解しかけていた。


街角ではリリエルが立ち止まり、井戸の水面に手を差し伸べる。

微かな魔力を指先に通すだけで、濁った水は清らかさを取り戻す。

商店の魔力も、街灯の光も、彼女の手の動きで安定する。

誰もその変化に気づかない。

しかし、確実に世界は救われていく――静かに、確実に。


瓦が揺れ、水面が波打ち、風が冷たく通り抜ける。

街の人々が日常を送る背後で、聖女の手は今日も世界を守っていた。

誰も気づかない。

この静かな救済こそが、街と世界の未来を繋ぐ唯一の力であり、勇者たちがまだ理解できていない希望だった。


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