第17話:勇者の後悔
城内の空気は重く、静寂の中に焦燥が充満していた。
カインは机に突っ伏し、拳を握りしめる。
数字上は何も異常はない。しかし、胸の奥に押し寄せる焦燥感と苛立ちは、言葉にならない呻きとなって体を締め付ける。
「……俺は……何をしてしまったんだ……」
正しいと信じた判断が、世界の狂いを止められない現実。
胸の奥の後悔が、冷たい怒りと混ざり合い、全身を覆う。
城のバルコニーではレオンハルトが街を見下ろし、眉をひそめている。
歩く人々のリズム、子供たちの笑い声、商店の魔力の揺らぎ――
すべてが微妙に狂い、数値には現れない異常が確かに存在していた。
「聖女……」
視線は無意識に街角に立つリリエルに向く。
まだ気づかない。
しかし、街の異変を止める鍵が目の前にあることを、潜在的に理解しかけていた。
街角ではリリエルが微かに立ち止まり、井戸の水面に手を差し伸べる。
微かな魔力を指先に通すだけで、濁った水は清らかさを取り戻す。
商店の魔力も、街灯の光も、彼女の手の動きで安定する。
誰もその変化に気づかない。
しかし、世界は確実に救われていく――静かに、確実に。
瓦が揺れ、水面が波打ち、風が冷たく通り抜ける。
街の人々が日常を送る背後で、聖女の手は今日も確実に世界を守っていた。
誰も気づかない。
しかし、この静かな救済こそが、街と世界の未来を繋ぐ唯一の力だった。
カインとレオンハルトの焦燥は頂点に達しつつある。
だが、二人の潜在意識は、目の前の聖女こそが世界を救う希望であることを、まだ理解しかけていた――




