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第15話:崩壊の前兆

城下町の空気は、昨日よりさらに重く、微かに歪んでいた。

瓦がずれ、井戸の水は濁り、街灯の光は時折消える。

人々は異変に気づかないまま歩き、笑い、働く。しかし、胸の奥には理由の分からぬ不安が芽生えていた。


「……おかしい……」

小さな声で呟く子供。

親は微笑み返すが、無意識のうちに街全体の異常を感じている。

日常に紛れた小さな狂いが、静かに人々の心を蝕んでいた。


リリエルは街角で立ち止まり、濁った井戸の水に手を差し伸べる。

微かな魔力を指先に通すと、波紋が揺れ、ゆっくりと清らかさを取り戻す。

商店の魔力も、街灯も、彼女の手によって安定する。

人々には分からない。しかし、世界は確実に救われていく――静かに、確実に。


城内ではカインが机に突っ伏し、拳を握りしめる。

「聖女を……追放したせいで、世界が狂ってしまうのか」

数字には異常はない。

だが、胸の奥の焦燥感は紛れもなく存在し、苛立ちと後悔が混ざり合って彼を締め付ける。


騎士団長レオンハルトもバルコニーから街を見下ろし、眉をひそめる。

歩く人々のリズム、商店の揺らぎ、街灯の瞬き――

数値には出ない異常が確かに存在する。

「聖女……まだ間に合うのか」

無意識に視線が街角に立つリリエルの姿を追う。

直接的には気づかない。

しかし、街の異変を止める鍵がそこにあることを、潜在的に理解しかけていた。


リリエルは静かに息をつき、次の異変へ歩を進める。

街全体の瓦が揺れ、水面が波打ち、風が冷たく通り抜ける。

日常を送る人々の背後で、聖女の手は今日も確実に世界を守っていた。

誰も気づかない。しかし、この静かな救済こそが、世界の未来を繋ぐ唯一の力だった。


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