第12話:街の異変
朝の光は柔らかく街を照らしていたが、その光の下でささやかな異変が広がっていた。
井戸の水は昨日より濁り、商店の魔力は時折乱れ、街灯の光は瞬きながら揺れる。
人々はその異常に気づかないまま歩き、笑い、働く。
だが、体は微かに違和感を感じ取り、心の奥に不安を生む。
「……何かがおかしい」
小さな声でつぶやく子供。
親は笑顔を作って返すが、胸の奥には理由の分からない不安が芽生えていた。
街全体の微妙な歪みは、まだ数字には現れない。
しかし、リリエルの目には、異変の兆しが鮮明に映る。
彼女は街角で立ち止まり、井戸の水を手で触れる。
指先から微かに魔力を流し、濁った水を清らかに戻す。
商店の魔力も、わずかに揺れた街灯も、彼女の手の動きで安定する。
人々にはその変化が分からない。
しかし、世界は静かに、確実に救われていく――
城内ではカインが書類を前に突っ伏し、頭を抱えた。
「聖女を……追放したせいで、これほどまでに狂ってしまうのか……」
数字に現れない異常。
だが、胸の奥の焦燥感は紛れもなく存在し、冷たい苛立ちとなって彼を締め付ける。
騎士団長レオンハルトもまた、街を見下ろして眉をひそめる。
人々の歩くリズム、声の張り、表情の微妙な変化。
全てが不自然であり、数値では表れない異常が確かにそこにあることを示していた。
「……聖女……」
無意識のうちに、彼は街角に立つリリエルの姿に視線を向ける。
まだ気づかない。しかし、彼女の存在が、この街を救う鍵であることを、潜在的に理解しかけていた。
リリエルは微かに息をつき、次の異変の場所へと歩みを進める。
街の人々は今日も日常を送りながらも、胸の奥に得体の知れぬ不安を抱える。
瓦がわずかに揺れ、水面が波打ち、風が冷たく通り抜ける――
世界は静かに、しかし確実に狂い始めていた。
その背後で、聖女の手は今日も静かに、世界を守っていた。




