第11話:魔力の暴走
城下町の空気は、昨日よりさらに重く、微かに歪み始めていた。
瓦が小さくずれ、井戸の水はわずかに濁り、街灯の魔力は瞬きながら不安定に光る。
人々は何も気づかず、日常を送る。しかし、歩く足取りはわずかに鈍く、笑顔も少しずつ消えていった。
リリエルは街の広場に立ち、目に映るすべての微細な異常を感じ取った。
風の匂い、石畳の冷たさ、水面の揺れ。
数字では測れない小さな狂いが、世界の均衡を蝕んでいる。
「まだ、間に合う……」
彼女は微かに手をかざし、井戸の水の濁りを整え、魔力の乱れを修正する。
水面はゆっくりと清らかさを取り戻し、街灯の光も安定した。
誰もその変化には気づかない。
しかし、確実に世界は救われていた。
城内ではカインが書類を握りしめ、机に突っ伏していた。
「……聖女を追放したせいで……」
数字に異常はない。だが胸の奥に、世界の歪みが確実に重くのしかかる。
焦燥と苛立ちが混ざり合い、言葉にならない怒りとなって彼の体を締め付ける。
騎士団長レオンハルトもまた、城のバルコニーから街を見下ろし、眉をひそめる。
歩く人々のリズム、子供たちの遊ぶ声、商店の魔力の揺らぎ。
数字には出ない異常が目に見える。
「……聖女……」
無意識に視線が街角に立つリリエルの姿を追った。
まだ誰も気づかない――
しかし、世界の歪みを止める鍵は、確かにそこにあった。
リリエルは足を進め、次の異変を整える。
街の人々は気づかず、日常を送りながらも、微かに不安を胸に抱く。
瓦の小さな揺れ、風の匂い、鳥の声。
世界は静かに、しかし確実に狂い始めている。
その背後で、聖女の手は今日も世界を守っていた。




