表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/28

第10話:異変の兆し

朝の光は柔らかく街を照らしている。

だが、昨日までの微かな異変は、今朝になって街全体に広がりつつあった。

井戸の水面は濁り、商店の魔力は乱れ、街灯の光は時折消え、微かに揺れている。

子供たちの笑い声も、どこか力なく、跳ねる音が鈍い。

通りを歩く人々は、何かに違和感を感じつつも理由が分からず、不安げな顔で足早に通り過ぎる。


城では、カインが書類を手に握りしめたまま、窓の外の街を見下ろしていた。

「……こんなこと、あり得るのか」

数字上は何も異常はない。だが、街の空気、住人の表情、魔力の揺らぎ――

胸の奥に、見えない異変の重さがずっしりと乗る。

追放した聖女の存在が、この静かな狂いを止められる唯一の希望だったのか――

そのことに、初めて気づきかけた。


騎士団長レオンハルトもまた、城のバルコニーから街を見下ろす。

歩く人々のリズム、子供たちの笑い声、商店の魔力の揺らぎ――

異常の規模は、もはや初期の兆しではなく、街全体を覆い始めていた。

「……聖女……?」

胸の奥で焦燥が膨れ上がる。

後悔と苛立ちが、混ざり合って冷たい怒りとなり、全身を締め付ける。


その頃、街角ではリリエルが静かに立ち止まる。

井戸の水を触れ、魔力を指先に通す。

濁った水面は波紋を描き、ゆっくりと清らかさを取り戻す。

誰もその変化に気づかない。

だが、確実に世界は整えられていく――静かに、しかし確実に。


商店の魔力も、リリエルの微かな手の動きで安定する。

薬草は本来の力を取り戻し、街灯は以前よりわずかに明るく光る。

人々には気づかれないが、世界は、リリエルの存在によって救われていた。


「まだ、間に合う……」

小さく呟き、彼女は歩き続ける。

瓦が微かに揺れ、鳥の声が響く。

街の人々が日常を送る背後で、静かな聖女の手は、今日も確実に世界を守り続けていた。


だが、カインとレオンハルトの視線が、微かにリリエルの存在を探していた。

まだ気づかない――

しかし、世界の歪みを止める鍵は、すでに目の前にあることを、二人は無意識のうちに感じ取っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ