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第1話:役に立たない聖女

礼拝堂の奥は、昼間でも薄暗かった。

リリエルは、冷たい石の床に膝を抱え、指先で微かに埃を撫でていた。

外の風が高い窓を揺らすと、微かに光が床に斑を作り、埃の粒が踊った。

その光景は、まるで世界そのものの静かな崩壊を予感させるようだった。


「数字が低い。役に立たない。」

報告書に書かれた言葉が、頭の中で何度も反響する。

誰も、彼女の気持ちを考えない。考えられないのだろう。

ここに座っているだけで、すべてが終わったかのような世界。


扉の向こうで、勇者カインの声が聞こえた。

「決定だ。これで行こう」

淡々としている。冷たい決意。感情の欠片も感じられない。

リリエルは目を伏せたまま、ただ頷く。返す言葉もない。


廊下を歩く足音が石畳に響く。

扉の隙間から差し込む光が、揺らめいて消える。

鳥の声が遠くでかすかに聞こえ、木々の葉が静かに揺れる。

世界は何事もなかったかのように動いている――しかしその裏で、確実に歪み始めていた。


リリエルは立ち上がり、ゆっくりと城の奥から出口へ向かう。

冷たい石の感触が足に伝わり、肩をかすかに風が通り抜ける。

振り返る者はいない。誰も声をかけない。

彼女を追放した者たちは、この瞬間に何も感じていない。

だが、世界はすでに静かに崩れ始めていた。


微かな予兆――

噴水の水面が小さく揺れ、街の広場では魔力の風がいつもと違う匂いを漂わせる。

城下町では、住人が知らず知らずのうちに不安を感じ、夜の眠りが浅くなる。

それでも、誰もその異変に気づかない。


リリエルは足を止め、深く息を吸った。

空気は冷たく湿っている。手のひらに残る冷たさと風の匂いが、世界の異変を告げる。

彼女は静かに目を閉じ、心の中で世界を見守る。

誰も気づかないまま――だが、確かに変化は進行していた。


そして、リリエルは一歩、また一歩と歩みを進める。

世界の静かな歪みを背負いながら、彼女は城を離れた。

誰も知らない、気づかない――それでも世界は、少しずつ壊れ始めていた。


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