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エピローグ

「で、誰が好きなの?」


 またその話? なんて呆れて返せば、友人たちはむっと唇を尖らせる。不満そうな顔をしているのは私に距離を置かれている気がするから、だそうだ。


「あたしたちだって蝶の恋を応援したいし」


 ねえ、と顔を見合わせる二人は楽しそうだ。それは嫌なものじゃない。多分、心からそう思っているのが伝わってくるからなんだろう。


「え、っと」


 だから、口にすることにした。自分の正直な気持ちを。迷ってなどいない。答えは、すでに。


「綺施池先生、なの」


 いつでも優しくて、可愛くて、ずっと鈴と私の味方でいてくれる人。初めて会った時から、私は彼女のことが好きだった。今はもっと好き。

 だからこの答えに迷いなんてない。間違っているとも思わない。この先も、絶対に。


「ふぅん、なんだ、やっぱそうだったんだ」

「っ、え? やっぱ、やっぱって、私、そんなにわかりやすい!?」

「うん。見てればわかるレベル。まあでも、そういうことなら応援しないとねー」


 ねえ、と。二人はまた顔を見合わせる。その様子に私は安心感を覚えて、でも、同時に胸がひどく痛んだ。

 だって。だってさ、一番居てほしい子がここにはもう居ないんだ。鈴が居てくれたらいいのにって、鈴が居ないのはやっぱり嫌だって──それでも時間は進んでいく。

 あの日のことを、誰も覚えていない。

 いや、それは少し正確ではない。

 恐らくは鈴が死んでしまった日以降のみんなの記憶の中から、鈴の姿は消えてしまった。

 それでも世界はこれまで通りに進んでいく。大きな変化なんてないままで。私から見れば、やっぱり色々なことが変わったと思うけど。

 それでも世界は優しくはない。

 あの時、鈴の言葉が届いた人はどのくらい居たんだろうか。そう考えて、どのくらい、なんて問いが無意味だったことに気がつく。

 たくさんに届かなくてもよかったんだ。たとえ一人でも二人でも、それでも鈴の言葉が届いた人がここにいる。

 それで、十分だから。

 そっと窓の外を見つめた。向こうの棟の屋上には誰の姿もない。

 ──もし。もしも、あなたがひとりぼっちじゃないんだって、ここに仲間がいるんだと伝えられたら。それがはっきりと口にできる人間になれたなら、鈴、私は、今度こそ鈴をひとりぼっちにしないで済むのかな。

 あの日空を舞った彼女の言葉は、きっと多くの人にとっては無関係で無関心なことで、わがままで身勝手だとしか思われないかもしれなくって。だけど私にとってそれは間違いなく肯定の言葉だった。応援の言葉だった。私に差し伸ばされた手だと思ったんだ。

 だから、ちゃんとその手を掴むよ。私はやっぱり隠すばかりで私自身を知られたくなくて、怖がりで臆病者のままだけど……変わりたくない。

 怖いからって、みんなの当たり前と同じようにはなりたくない。ならないって、決めたから。意地を張っているだけなんだとしても。それでも、私はもう、普通に手は伸ばさない。

 掴んだのは変わらないままの私自身。間違ったままかもしれない私自身。

 それでいい。

 それが、いい。

 他の誰かにとっては間違いかもしれなくたって、それこそが私の望んだ私だから。

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