13ー5
叫びは予想以上に大きく響く。それに怯む余裕なんて今の私にはない。何も考えていなかったはずなのに、いや、何も考えていないからこそ唇は勝手に言葉を紡ぎ出す。
「私は、この世界が大っ嫌い!」
私自身にも認識することができていなかった、本物の言葉を。
「私は同性が好きで、ただ同性が好きなだけなのに、いつだって見せ物みたいな視線を向けられた。普通に過ごしたかっただけなのに、その普通から拒絶された。だけど拒んだ側は悪いことしたなんて顔はしなかった、ただの一度も! いつもいつも自分たちが普通だって、自分たちが当たり前なんだって、自分たちとは違うお前たちがおかしいんだって! 同性が好き、子供が嫌い、それはこれから変わっていくからって! そんなのは気の迷いなんだって! だけど」
だけどさぁ、そんなのは何の救いにもならないんだよ。そんな言葉に救いなんてないんだよ。
「そんなの私を傷つけるだけだった。そんな言葉をかけられるたびに、ああやっぱり私は間違ってるんだって思わされた。いつか変わる、いつか楽になる──それは誰の願望なの? 私じゃない。私じゃなかった! 私は、私は変わりたくなかった。たとえ自分が普通じゃなくても、正しくないって言われても、みんなと違っていても、それでも私は、変わりたくなかった!」
届いてんのかな、これ。
冷静な自分が頭の端っこに居る。でも、彼女は私を止めようとはしない。ただ黙って、私と、視界に映るみんなを見てる。
「私は今の私が好きなわけじゃない。でもみんなと同じになった私のことなんて想像したくもない。今の私よりも、そうなった私の方がずっとずっと嫌いだから! だから変わるなんて言葉は救いなんかじゃない。いつか楽になるなんて言葉だって慰めにはならない。私は」
ああ、もう、なんか泣いちゃいそうだった。
本当にこれ、意味ある? ないよね?
理性は静かに不安を紡いでる。けど止められない。止めたくない。
「私たちは、変われないし変わらない! 楽になるはずのいつかなんて欲しくない。楽になりたいよ、楽になりたい。だけど、みんなに合わせることで楽になりたいわけじゃない。私は、私たちは本当は、みんなにわかってほしかった──」
本当、最悪なほど支離滅裂。これじゃあきっと、何一つ届かない。届かないけど、届かなくても、多分もういいんだ、私は。
みんなの視線が痛くって、ちゃんと話を聞いてくれているかわからなくたって、それでも。
「みんなに、わかってほしかった。知ってほしい。みんなの考える当たり前とは違う人がいることを。それは遠くの誰かなんかじゃなくって、今そばにいるその人かもしれないってことを。どこにだって普通が受け入れられない人がいて、どこにだってそれを苦しんでいる人がいる。平気そうに見えてる人だって、普通と変わらないように見える人だって、それでも世界の常識に馴染めずに苦しんでる。だから、お願いだから、知ってください。あなたたちの常識が、普通が、当たり前が、誰かを苦しめていることを。それが決して正義ではないことを。多数派であるだけで、絶対的に正しいわけじゃないことを。それが、誰かを殺してしまうことだってあることを──」
我儘な叫びは、ここまでだ。
大きな音が背後で聞こえた。振り返る。開け放たれた扉のそばに先生方が立ってた。くーちゃんもいる。思わず笑いそうになって、だけど彼女の姿に視線が吸い寄せられた。
「っ、極寂、さん」
真っ青な顔をした伊好先生がいた。ああ、来たんだ。そっか。担任なんだから当然かな。
「まっ、待って、こっちに」
震える足で私の方へとやって来る。他の先生方も何か言ってる。
でも、ごめんなさい。
その言葉を聞くつもりはないんだ、私は。
「────」
息を吸い込む。拡声器を放り投げた。それが屋上の床とぶつかる音が合図。地面を蹴った。口の端が吊り上がる。最後の最後に出てくる言葉は何だろうか。
感謝?
懇願?
まさか、そんなわけがない。
「ああ──やっぱり、お前らなんて、大っ嫌いだ!」
最後の叫びは誰に届くのだろうか。誰かに届いただろうか。ずっと抱え続けた私の本音は、誰かに。
こちらに駆け寄る先生方が死にそうな顔をしているのが見えた。けれど、そんなものはすぐに見えなくなる。
次に視界に入ったのは真っ青な空。
手を伸ばす。届かない。ああ、やっぱり届かない。
でもいい、いいんだ、私は何色にも染まりたくないから。
どんな綺麗な色に憧れたとしても、他の誰かと同じ色に染まりたいと少しでも思ってしまうことがあったとしても、もうそれに手を伸ばすことはない。
どれほど汚くたって、私は私のままでいたいから──けど、やっぱり。
「ああ、羨ましい。綺麗すぎて、嫌になる」




