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13ー4

 五時間目の途中に警告音は鳴り響いた。

 次いで、火災発生を知らせる放送が流れる。授業を担当していた教員は速やかに避難の指示を出した。それに従ってみんなと一緒に教室を出る。だけど彼らと一緒には行かない。みんながどういう風に避難していくのかは大体覚えている。くーちゃんが教えてくれたから。それを頭の中で思い浮かべながら、みんなの流れからそっと外れた。


「っ、やっば、気持ち悪くなってきた」


 最初は早足、それは次第に駆け足になって、最後は全力で走っていた。階段を駆け上がる音が虚しく響いては壁に吸収されていく。

 心臓が叫んでる。ここから出せって。無理に決まってるって。

 胃の中身が暴れ回ってる。こんなことして何になるんだって。結局自分のわがままだろって。


「わがままで結構、どうせ死んでるんだから!」


 答えは、答えは、答えは。

 見つからない。何も見つかっていない。

 何をどうやって伝えればいいのか、何を言えばみんなに届くのか、飛び降りることは本当に正しいのか──いや、それは正しくないけどさ。


「でも、わかんないでしょ。そのくらいしないとわかんないでしょ、みんな」


 そう。言葉だけじゃ伝わらないことなんていくらでもある。言葉は大切だけど、言葉だけじゃ足りない。言葉だけで足りるのはそれ以前に積み重ねてきたものがある時だけだ。私とみんなの間にはそんなもの、ない。だから別のものが必要になる。

 行動、証拠、衝撃、傷──何だっていいんだ。

 何だっていいんだけど、でも、きっとこのやり方が一番届きやすい。これでも届かなかったら諦めるしかない。要するに、自分が一番納得できる方法だったんだ。どう転んだとしても、結末に。

 屋上へと通じる扉の前で一度立ち止まる。小さく息を吐いてドアノブに手をかけた。鍵のかかっていないドアはあっさりと私を屋上に導く。

 温度のない風が頬を撫でた。浅い呼吸が繰り返されている。それを拒むように意識的にゆっくりと息を吸って、吐いて。一歩一歩進んでいく。

 どこへ?

 屋上の端へ。そして、終わりへ。

 床に置かれていた拡声器を、手に取った。


「──はは、こっわ」


 まだ柵の向こうに立つことすらしていない。けど拡声器を持つ手はかたかた震えてる。

 情けない。情けないけど、変えたい。

 今じゃない。

 今じゃないを、変えたい。

 今でいいには、絶対にならない。わかってる。それでも、それでも変えなくちゃいけない。変えるんだ、全部。

 私自身は、変わらないままで。

 ──やめてもいいんじゃない?


「冗談じゃない。ここでやめたら、蝶を引き止めることになる。蝶の足を引っ張ることになる。そうでしょ」


 そうだよ。

 震えてた。

 見つかっちゃったんだって言ってた。

 友達は蝶を受け入れたかもしれない。それでも蝶はきっとまだ孤独だ。だから仲間を求める。私を求めた。でも、いけない。それじゃだめなんだよ。

 だって私は、死んでるんだから。

 フェンスを飛び越えた。運動場を見下ろした。誰かが声をあげたのが耳に届く。生徒たちがこっちを見てるのがわかる。その中に、ほんの小さな黒色の瞳が見えたような気がした。


「──っ、私の話を、聞け──!」

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