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13ー3

 昼休みが終わるまで、くーちゃんは私の正面に座ったままだった。途切れ途切れにした話は他愛もないものばかり。

 ──時間が、止まればいい。止まってくれればいいのに。

 でもそうはならない。なってくれない。これ以上の奇跡は、もう、起きない。


「それじゃあ、行ってくるね」


 昼休みの終わりを告げる鐘の音に立ち上がる。くーちゃんは座ったまま私を見上げていた。


「極寂」

「ん?」

「──後悔だけは残しちゃ駄目よ。もう、次はないんだから」


 言って、くーちゃんは口元を緩めた。私の背を押すようなその笑みに、私は本心からの笑みを返す。


「うん。いってきます、くーちゃん!」

「いってらっしゃい、極寂」


 ちゃんと笑って、保健室を出た。

 廊下を歩いていると誰かがこちらに駆けてくるのが見えた。見覚えのあるその姿は私と目が合うと手を上げる。


「鈴!」


 走って来た彼女は私の前で止まると大きく息を吐き出した。漆黒の瞳と視線がぶつかる。時間が引き延ばされているような感覚に襲われた。でも一秒は一秒。時間はやっぱり、止まってくれない。


「ごめん、保健室、行けなくて」

「いいよ。あの二人と仲良くできてるならその方が私は嬉しいから」

「……鈴がいたからだよ。鈴が手を引っ張ってくれたから、私は」


 その言葉に、私は首を横に振る。だってそれは違う。


「あの日ちゃんと踏み出したのは蝶だよ。私は何もしてない」


 だって私は、みんなを拒んだままなのだから。

 蝶は納得のいっていない様子で、でも、と言葉を続けようとする。それを遮るように私は口を開いた。


「ねえ、蝶。ちゃんと見ててね、最期まで」


 吊り上がりがちな目が大きく見開かれる。黒い瞳は頼りな気に揺れたけれど、瞬きの後、それはしっかりと私を見つめていた。

 それでも、蝶の瞳は震えていた。


「見てる。見てるよ、鈴。だから、鈴もちゃんと見せてね。鈴の言葉を、意思を、やりたいことを」


 蝶が自身のシャツの胸元をぎゅうと握りしめる。

 震えていた。瞳も声も身体も。

 ……できるの?

 問いかけが頭に響く。

 蝶を置いていくようなこと、できるの?

 できない、できないよ、できないけど──でもさ、蝶はもうひとりぼっちじゃない。蝶を取り巻く世界だって、きっとこれから変えられる、変えるためにするんだ。

 変わらない、私が。

 ──傷つけたいから?

 ──復讐?

 それは本心。でも、それだけが本心じゃない。


「大丈夫だよ、蝶」


 他にいくらでも方法はあるんだろう。他にいくらでも、正しいやり方があるはずだ。でも私はそんなものを選ばない。そんなものは、選びたくない。

 傷つけてでも届けたいから。

 傷がつくほど深いところまで届いて欲しいから。


「絶対に、ひとりぼっちにはしないから」


 だって私は、今にも泣き出しそうなこの女の子を取り囲む世界を、やっぱり少しでも変えたかった。

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