表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/59

12ー4

 午後五時を過ぎて保健室を出た。別れはいつも通りで、だから明日はきっと今日と変わらないはずだ。

 誰もいない廊下を進んで昇降口へ。静かだった。生徒たちの声も吹奏楽部の練習の音も聞こえるのに、それでも静かだと思った。きっと別の世界の音だと認識してるんだろう。もう交わることなんてない世界の音だって。


「極寂、さん」


 その声に、足を止める。本当は止める必要なんてなかったのかもしれない。それでも足は止まった。

 顔を上げる。正面には伊好先生の姿があった。鈍色の瞳が頼りな気に揺れている。その目は私を見ようとはしない。


「伊好先生」


 紡がれた言葉が昇降口に大きく響いた。伊好先生はまだ、私を見ない。


「避難訓練の日は、私のこと見てくださいね」

「……へ?」


 どういう意味? そう訊ねるような瞳が私に向けられる。ようやく私を見たその目は、けれど私が真っ直ぐに見つめ返せばまた逸らされてしまう。


「その時になればわかりますから。それじゃあ、失礼しますね」


 下駄箱に向かう私を止める声はない。

 伊好先生は結局、私の言葉を受け取ってくれたんだろうか。私は伊好先生の言葉を受け取れないままだった気がする。受け取れない言葉は存在する。だから、仕方ない。仕方ないけど、もう少し時間があれば何かが変わっていたんだろうか。

 声は届かず、時は足らず、そうして終わる──たとえそうなったとしても、それは後悔にはならない気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ