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「私さ、ずっと自分がひとりぼっちだと思ってたんだよね。中学に上がるまではそんなこと考えなくてすんだんだけど、けど、中学ではっきりわかっちゃったから。自分は周りとは違うんだって。自分は普通じゃないんだって」
たとえそれが私の思い込みでしかないんだとしても、それでも辛かった。
周りと違うことが。自分とは違う周りのことを少しも理解できないことが。
だからこそ私は私がひとりぼっちだと思っていた。……きっと、蝶も同じ。
「けどさ、自分以外の人は知らないわけ。私が、私たちが周りと違うことで悩んでるとか苦しんでるとか、どういう思いしながらみんなに合わせてるのかとか。隠さなければあの子は一人で平気そうだ、あの子は自分たちとは違うから一人でいる方が楽なんだって思われる。隠してれば、あの子は私たちと同じだ、で終わり。……わっかんないんだよ。当然だよね、言わないんだからわからない。言われなきゃ誰だってわかんない。ここにいるって叫ばなかったら、誰も気がつかない。だから」
だから、それはきっと今の私にできる唯一のことだと思う。見知らぬ仲間のために、別れを告げなければならない大切な友達のためにできる、たった一つのことだって思うんだ。
「私は、みんなにちゃんと伝えたい。自分がどんな人間で、これまで自分がどう思ってきたのかを。それを伝えて何の意味があるの? って思われるかもしれないけど、それでもさ、あるって思うんだ、私は。遠い世界に住む誰かよりも、同じ場所で過ごす誰かの言葉の方がきっと身近に感じてもらえるはずだから。受け取ってもらえるかなんてわかんないけど、誰か一人くらいには届くはずだって思うから」
具体的な言葉ができているわけじゃない。それでも、私は私の思いを届けたかった。世界中じゃない、この学校にいる誰かに届いてほしかった。
だってここは蝶が過ごす場所だから。蝶が今生きている世界だから。
……たとえ声が届かなくたって、それでも何かは変わるって信じたいんだよ。
「……うん。なら、そうしましょう。極寂がみんなに言葉を伝える時間を作りましょう、絶対に」
「え、でも、その、授業っぽいことはちょっと」
「わかってるわよそのくらい。それに今更授業を変えてもらうのもね、あとちょっとで一学期が終わるもの。……二学期までは、待てないでしょう」
頷くしかなかった。そこまで待てば、あの死体は今よりももっと酷い状態になるだろう。そもそも誰かが発見しないとも言い切れない。これ以上はもう、待てないんだ。
「チャンスがあるとすれば終業式かしら。ああ、その前には避難訓練があるわね。どっちも全校生徒が集まる機会だし、そこでなら極寂のやりたいことができるんじゃない? どうする、先生方に掛け合ってみようか」
「避難訓練……」
「全校生徒が運動場に集まることになるからね。みんなの前に立つんなら、まあ台を用意してもらう必要があるけど」
もちろん、それが一番正しいやり方……だけど、私は正しいやり方でみんなに言葉を伝えたいわけじゃなかった。
ただ前で話をされたって、きっと残ることは少ない。大事なのはインパクトだ。驚きだ。衝撃なんだ。……たとえやり方が間違っているのだとしても。何かを変える時って正しいだけじゃ変わらない。
それは、言い訳なんだけどさ。
「くーちゃん、先生方には内緒にしてほしい。それで、避難訓練の日なんだけどさ、屋上の鍵を開けておいてもらうことってできるかな。……あとでくーちゃんが怒られちゃうかもしれないけど」
恐る恐る顔を見る。くーちゃんは一瞬だけきょとんとした顔をして。
「何言ってんの。わたしも怒られるけど、極寂だって怒られるんだからね。共犯よ、わたしたち。ま、責任を持つのはわたしだけどさ」
「……うん」
そっか、と。小さく呟かれた声に目を向ける。蝶は、どこか昏い瞳で床を見つめていた。
「……見つかっちゃったんだ、未練」




