鏡に映る夢
「こちらが、今回献上させて頂く菓子でございます。近年、異国より伝来いたしました『花火』がモチーフになっております。王姉殿下の為に職人が丁寧に作り上げた逸品でございます。王陛下の同母の姉である殿下に召し上がって頂けるのなら、この上無い栄誉でございます」
目の前には豪華ですが、決して下品ではない装飾が施された菓子があります私は「紅玉の君」と呼ばれる理由である、炎のように赤い瞳を瞬かせました。どうして、私がここにいるのかしら? 私は外患誘致の罪を着せられました。頼った弟は肉親の私を庇うことも無く、私を裏切り者として扱い、無力感に沈む中で処刑された筈でした。しかし、今、私はまるで夢を見ているかのように元の、王姉として立っていた頃と同じ扱いを受けているではありませんか。このようなことが只人の手によって起こる訳がございません。では何方が? ・・・・・・まさか、神々では無いでしょうか。ならば、何故このような奇跡が私の下に降り注いだのでしょうか? 私はあまり礼拝をしていなかったはずですのに。
動揺を隠す為に私は一先ず、献上された菓子を口にしました。すると、やはり同じ時をなぞっているのでしょう。菓子はあの日食べたものと同じ味がしました。今となっては懐かしく思える味です。涙が溢れそうになり、私は慌てて、けれど決して表に出さないように、捕縛される前を思い出しながら優雅さを保ちつつ、お茶を一口飲みました。
数日後、私は洗礼を受けた時以来になるのでしょうか、神殿の大聖堂へと足を運びました。もしも、神々のお導きであるのなら、私はその神に報いなければいけません。それは王姉としての義務感では無く、私自身の感謝によってです。
嗚呼、神に感謝を。神々よ、あなた方のご意志の通り、私は必ず生きて見せましょう。鏡の様に同じものを見せたりなどいたしませんわ。もう二度とあんな屈辱の日々を繰り返したりなどはしない事を誓いましょう。そう祈りを捧げました。
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