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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』
8/18

#7これからよろしく共犯者(4)

 そこからは、蹂躙という言葉が一番似合う。

 殴られ、蹴られ、掴まれ、折られ、嬲られ。

 時に立ち向かって、意味もなく蹂躙は続く。


 彼我の差は圧倒的。

 とても正視に耐え切れない有様だ。


 嬲られる。しかし、そのどれらも、命には至らない。

 どうやら殺すつもりはないらしい。

 ただ、ひたすらに、楽しんでいる。

 おもちゃで遊ぶ子供のように、無邪気な笑みをソレは浮かべていた。

 といっても、生かすつもりもなさそうだ。


 痛い。

 全身が悲鳴を上げている。

 痛い。

 まるで鉄の雨に降られてるみたいだ。

 痛い、痛い――痛い。


 今まで受けた痛みなど、それに比べてしまったら、大したことがない。


 ヘッドホンは、消えている。


 何も聞こえず、ひたすら苦しい。


 助けられると、そう思っていた。

 それはあまりに傲慢で、俺は自分の怠惰に気づいていなかった。


(俺はどうして――)



 ――強くなる努力をしなかったのだろう。



 俺がスーパーマンなら、その王冠なんて一握りで破壊できるだろうし。

 俺が知識溢れる人間だったら、この王冠に対する対処方法だって知っていただろうし。

 俺が心の強い人間だったら、この状況に後悔なんて覚えなかっただろうし。


 後悔する、後悔している。ずっと。

 単純な話、この惨めな状況を味わっているのは、自分の怠惰が原因だ。


 鍛えようとしなかった。

 知ろうとしなかった。

 強くなろうとしなかった。


 後悔を覚えた自分に、嘲笑が漏れる。



 ――逃げなかったのはお前だ。



(だったら最後まで、カッコつけろよ)



 俺は最後まで、弄ばれ続け――。



 ◆



「ぁ」



 小さく漏れたその声が、彼女の正気を悟らせた。

 地面に蹲る俺を、彼女は抱え起こした。


 表情が見える。


「あ、浅葱、くん」


 なんで、と。


「――なに、ココンさん」


 視界が明滅する。

 景色が陽炎のように揺らめく。

 世界の輪郭は朧気に、鮮明さを欠いている。


「なんで、そんな、ボロボロになるまで、ずっと」

「あぁ、やっぱりボロボロ?」


 痛い、痛いが、それだけ。

 命に瀕するような事態ではないと思うが、自分の姿は自分で見れない。

 彼女の声の震えから伝わる通り、相当手酷くやられたようだった。


「な、ぁ、なんで。逃げなかったんですか」

「ダサいじゃん」


 逃げれた。

 正直に言ってしまえば、嬲られいる最中に、不自然に挙動が止まる隙があった。

 それを利用すれば、逃げられた、ような気が、する。――でも、ダサいし。


「ココンさんのピンチに逃げ出すほど腐ってないよ、俺は」

「別に、私は全然ピンチなんかじゃ、それより、浅葱くんの方が、ずっと、逃げるべきでした。それだったら、貴方は、そんな、傷つかずに済んだのに」


 何故だか俺よりも、ココンさんの方が。

 泣き出してしまいそうに悲痛に表情を歪ませた。


「なんで、貴方は逃げないんですか」


 追い詰められた末に出た、自分の本音を、俺は既に知っている。

 だから、しっかり伝えようと思う。


「ここで、逃げなかったら――」


 ちょっと言いよどんで、それから弱弱しく、掠れた声で呟いた。



「……――君と、ちょっと、仲良くなれる気がしたから」

「――は、ぁ?」



 心の底からの困惑が、俺の本音に対する返答だった。


「貴方が、何を言ってるのか、全然わかりません」

「君が困ってるときに、逃げ出すような奴は、嫌だろ」

「だから、何を言ってるのか――」

「――……俺は、実に高校生らしい。普通の悩みを持っていて」

「……なんです?」

「友達が、一人もいないんだ」


 だからなんだと、その視線が突き刺さる前に、俺は言った。


「友達に、なりたくて。君と。友達になれればいいと、そう思ってて」

「――ッ、は? ……それだけ?」

「うん。だから、君を助けたい」

「そのために、自分が傷つくことを、許容できるとでも?」

「友達のためなら、命を張れる人間でありたい。結果、何もできてないから、ダサいけどさ」

「友達じゃ、ありませんよ、私たちは。そんな、体のいい関係じゃ、ありません」

「じゃあ、なんだよ?」


 彼女は決意のこもった表情で続ける。


「私はこれから、こんなクソったれた状況を再演しないために、ありとあらゆる手を尽くします。悪いことだってします。それでも、貴方が、助けてくれるって言うのなら――」


 彼女は言葉を一区切りして、そして告げた。



「――私たちは共犯者です」



 ――『共犯者』。やけに口馴染みのいい言葉を、脳内で反芻する。


「報酬は、友達()との学校生活なんてどうでしょう」

「うん。いいね」

「本当に? また傷つくかもしれませんよ?」

「大丈夫じゃないけど、大丈夫だよ。だから……――これからよろしく、共犯者」


 痛いのは嫌だ。怖いのも嫌だ。俺はいたって普通の高校生である。無力な、一般人。

 それは分かっているけれど、ここで俺が頷かなかったら、彼女は一人になってしまう気がした。


「はは、そうですか」


 彼女は俺の言葉を聞いて、呆れたように笑う。


「じゃあひとまず、私の家ですね」

「はい?」

「貴方の治療と状況の説明と、色々と色々あるので」

「ん?」


 俺は抱えられた。



 ――お姫様抱っこで。



「ココンさん?」

「大丈夫です。夜ですよ?」

「いや、そういう問題じゃ――あぁァ!?」


 とんでもない速度で、彼女は夜の街を駆け始めた。

 過ぎては変わっていく景色に、思いを馳せる余裕もない。


 俺はふと思う。本当に今更ながら、とんでもない出来事に足を踏み入れているのではないかと。



 ――引き返すには、あまりに遅い。


明日も投稿出来たらいいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 共犯者。 決して聞こえの良い言葉ではありませんが、二人の関係に限ってはピッタリのワード…かもしれません。 「悪いこともやる」と断言したココン。二人はこれから、どんな事をしでかしてくれるので…
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