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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』
5/18

#4これからよろしく共犯者(1)

遅れました。


 突然だが、自己紹介をしようと思う。

 浅葱虎徹、十五歳。ところどころ外ハネした、光加減次第では青く見える黒髪と、青い瞳、黒縁メガネが特徴の、中肉中背のナイスガイである。


 そんな俺は、ココンさんの王冠をぶん殴った後で、手が痛すぎて地面に蹲っていた。


「……手、めっちゃ痛いんだけど」

「まぁ流石に短絡的過ぎましたか……」


 夜。

 小さな児童公園にて。

 俺は全力で、ココンさんの王冠──、もとい『病』をぶん殴って、そして撃沈した。



『王冠は人間の拳でぶっ壊れますか?』



 答え。

 ──マジで手が痛くなるだけなので、変な真似はよした方がいい。



 ベンチに座って、崩れ落ちる俺を上から見下ろすココンさんは、どこか落胆したようにため息を吐いた。


「流石に浅葱くんの拳じゃどうにもなりませんか」

「そもそも病をぶん殴ったら症例が改善するのかなぁ……?」

「諦めるのは早いですよ、次です」

「次ぃ?」


 その言葉に、思わず聞き返すと彼女は真剣身を帯びた様子で、彼女は俺に金属バットを差し出してきた。


「──……ねぇ、さっきホームセンターでさ、用途不明のバットを買わされたのって……」

「浅葱くん。……フルスイングを、勢いよくこう、丁度王冠にぶち当ててください」

「バカなの? 万が一頭に当たったらどうするの?」

「世界に新しく殺人犯が生まれますね」

「俺嫌だなぁ!? まだ罪は犯したくないなぁ俺……」

「浅葱くん。私はベンチで動かないように最大限努めますので。ほらいい感じに王冠をぶっ飛ばす方向で行きましょうよ私たち!」

「絶対嫌だから。万が一が怖いから──!」


 結局、バットの先で小突くだけに留まった。

 当然ながら、それで王冠に傷なんてつくはずもなかったが。


「まぁ……、当然ですね。次」

「次があるの!?」


 その後も、王冠を壊すために様々な試行錯誤をこなしたが、何をしても、どうやっても、王冠に傷一つ付かない。

 夜の中でも目立つ紺色の王冠は、依然として健在。

 何をしても付かない傷に、気にしていないのか、腹を立てる様子もなく、そもそも感情がソレにあるのかすら不明ではあるが、王冠は眠たそうな目をして、それは徐々に閉じていって。

 ──完全に瞼が閉じられた後、それはココンさんの頭の上から闇に溶けるように姿を消した。


「あぁ!? コイツ、また私の意思に反して!?」

「その王冠、意思があるの?」

「強い『病』には、知性があるんですよ。別に喋るわけじゃないですけど。……ちょっとした意思くらいは……。まぁ、感じます」


 ココンさんは消えてしまった王冠を惜しむように、自分の後頭部を、寂し気に撫でた。


「多分、物理的手段じゃ、どうこうしようもないですね、コレ」

「じゃあ、なんでぶん殴らせて解決しようとしたの……?」

「それ以外に解決する手段が思いつかなかったからですよ! ──馬鹿なんです私。……馬鹿なので。冴えた妙案なんて思いつくわけないじゃないですか」


 自分を貶すような嘲笑が漏れて、彼女は思いっきり背もたれに寄りかかると、足をジタバタとさせて、現状への鬱憤を晴らすように叫んだ。


「あぁ、もー! なんなんですかねぇコレ!!」

「ちょ、声──……」

「いいんですよ! どうせ浅葱くんにしか認識されませんし!! 私が叫んでも誰も気にしませんし!!!」

「俺が気にするし」


 俺はベンチのすぐ後ろにあった自動販売機に歩くと、それを指さしながら聞く。


「ほら、何飲みたいの?」


 後ろを振り返ってから、膝立ちして腕を交錯させながら背もたれを掴み、重心を前に押し付ながら、彼女は呟いた。


「じゃあ……缶コーヒーで」

「はいよ」


 硬貨を入れて、俺が自動販売機のボタンを押すと、ガコンと、取り出し口に飲み物が落ちてくる音が聞こえた。


「ほら投げるよー」

「え、ちょ、まっ──おぁッッ!?」


 取り出した缶コーヒーをココンさんに向かって投げ渡すと、彼女は到底女の子が出してはいけないような奇声を発して、それをキャッチした。

 思わず苦笑を漏らすと、それを咎めるようにココンさんは視線を鋭くした。


「もうちょっと紳士に渡してくれてもいいんじゃないんですか? いや、いいんですけども、ありがたいんですけど。驚くと変なところから声出るんで私」

「事前に言ったじゃん」

「もう少し間隔があってもいいじゃないですか。ほぼ同時でしたもん」

「ごめんって」

「とりあえず私の奇声は、早急に記憶から消してくださいね」


 言いながら彼女はプルタブに指をかけると、缶コーヒーを口に傾ける。


「ん、おいしいですね」

「それはよかった」


 言いながら俺もベンチまで戻ってきて、彼女の隣とも言えなくもない、端っこ。微妙なスペースに腰かけた。


 何を話すわけでもなかった。

 絶妙な間が、二人の間で流れる。

 居心地が良いわけでも、悪いわけでもなく、何か言わなければいけない気がするけれど、それが分からない。

 ──先に口を開いたのは、彼女だった。


「浅葱くん」


 静かな夜に、彼女の声はよく聞こえた。

 缶コーヒーを両手で持ちながら、神妙な表情で呟いた。


「──明日も私のことを、忘れないでいてくれますか?」


 彼女は俺の方を見て、そう問いかけた。














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