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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』

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18/18

#17引き金を引く

久しぶり

 朝の教室、特に一番乗りしたときの、新鮮な空気が自らに突き抜ける、あの感覚が好きだ。

 教室に早く着いたご褒美なのか、普段人であふれる教室を独り占めにできる、まるで一人ぼっちの独裁者になったような、あの高揚感が好きだ。


 学校の靴箱で靴を履き変える。


 何も書かれていない黒板。整然と並べられた机。誰も座っていない椅子。荷物のない教室。

 自分以外の何者も存在が感じられない、青色の教室に早起きが習慣となっている僕は一番にたどり着く。

 その静寂が、今を取り巻く自分の全てで、人で賑わっていてもそれは変わらない。


 それは少し寂しいけれど、だけど納得もしていたのだ。

 人と仲良くなる肝心の第一歩を踏み出せずにいる僕は、図書館で借りた活字と戯れるのがお似合いなのだと。


 学校の廊下を僕は歩く。


 僕は臆病な人間だ。

 それは今も変わらない。


 第一歩は、本当に些細なきっかけで。

 存外に彼女と仲良くなれそうだと思った矢先に、明らかな異変に巻き込まれた。


 馬鹿なことをして、それは客観的に異常だと判断できる。


 原動力はなんなのかと、考えればすぐに答えは出る。

 一人になるのが怖かった。納得はしていたけど、現状に満足しているわけではなくて。

 僕は孤独を恐れていて、隣に誰かが欲しかったのだ。


 青春は一人で育むものじゃないから、やっぱり一人は寂しかった。


 ふと自分の教室のクラス札に目が行く。

『1-B』。まちがいなく、自分の教室だ。


 今日は、教室の鍵がなかった。

 一番早くにたどり着き、新鮮な教室の空気を体感する対価として、僕は鍵を借りて教室の扉を開く役目を受け持っているのだが、どういう訳か自分の教室の鍵がなかった。


 誰か僕よりも早くに着て教室の扉を開けたのだろう。

 珍しいこともある物だと、神妙な面持ちで僕は教室の扉に手をかけるのだが。


 不思議な確信があった。


 それを信じて、思いっきり扉を開けた。

 余りにも勢いが良すぎてガラッと盛大に音が出た。


 教室の、窓際の最後尾。

 自分の席だ。真っ先にそこに目が行ったのは、今となっては見知った銀髪の女子生徒が、何かを待つように腕で枕を作って机に目を伏せていたからだ。


「浅葱くん」


 扉の音に反応して、パッと頭を上げ儚げに振り返った彼女は、うっすらと微笑みを浮かべて、机に手を乗せて立ち上がった。


「……ココンさん?」


 既視感に満ちたはずの教室に、一人いた。

 いつも通りならだれもいないその場所で、孤紺糖財は待っていた。


 彼女は机の傍に置いてい会ったスクールバックを肩に、全力でこちらに駆け寄ってきた。


「ココンさ――わぷっ!?」


 無防備な手を、思いっきり掴まれて、さっき僕が開けた扉からどこへ向かうのか、目的地も不明なまま手を引かれた。


 学校の青い廊下を駆ける。

 右足と左脚を、交互に、少しバタつきながら進む。

 僕に抵抗する余地などなく、されるがままに上階の階段も駆け上っていく。


 脚で床を思いっきり打つ音だけが聞こえる。

 普段はもっと静かな学校が、騒ぐように音を立てる。


 抗議する間もなく、それは随分瞬間的な出来事だった。


 ココンさんに思いっきり手を引かれて、廊下を走る。階段を上る。踊り場で止まる。

 屋上に続く扉を前に、少しは見慣れた先輩の姿を発見する。

 小麦色のワンサイドアップが特徴の可愛らしい雰囲気を漂わせる少女――、五鈴先輩だ。

 学校の制服を身に包み、軽く手を上げて目を細める先輩の、その脇を通り抜けた。


 屋上の扉を開けると同時に、後ろ手でココンさんはその扉を閉めた。


 また、少し、手を引かれて。


 屋上の中心部まで歩いたところで、ようやっと僕は手を離された。


 息を付く間もなく、猛烈なスピードでここまで走り抜けた。

 わざわざここまで来る真意を測るその前に、彼女は鞄から銀色の銃を取り出した。


 それを、無理やり、僕の手に握らせる。


 銃刀法違反を一々指摘する必要性を感じられないくらいに、僕は病の世界に侵されていた。

 しかし、銃を握ると、その認識は鉄の感触と共に少し変わる。何か、改めて一般人としての領分を超えてしまったような感覚。


 銃口部分彼女の手によって握られ、その銃口はいつのまにやら顕現していた紺色の王冠――、『病』に向けられている。


「さて、浅葱君」


 彼女はこちらを、期待するような眼差しで見つめながら。


「――撃てますね?」

「いきなり過ぎない?」


 そもそも、僕は説明を求めたかった。

 彼女が教室に居たこととか、屋上に連れ出されたかと思いきやいきなり銃を握らされたこととか、そもそもこの引き金を引いたら君の問題は解決するの、だとか。


 いろいろ聞きたくて、それが多すぎるせいで思考がまとまらない。


 随分と低仕様の脳みそに、我ながら苦笑を浮かべつつも、聞きたいことだけ聞くことにした。


「この引き金を引いたら、君は元の日常に戻れるの?」

「渡辺先生と話し合って、導き出した最良の手段がこの状況と、その銃です。これで全ては解決します」


 彼女は自信満々にそう言い切ってから、「あ」と付け足すように笑っていった。


「銃声で現行犯逮捕になる恐れはありませんよ? 五鈴先輩の能力で、この屋上から外部に音が漏れないようになってますから」

「ホント便利だねあの人の力……。ありがたいけれども……」


 現行犯以前に、これから起こることを考えれば、残念なことに、順当にいけば僕は犯罪者になる。

 引き金を引けば、詳細な過程は置いておいて、どうにもすべてが解決するらしい。


 今更、後に引く選択肢はない。

 ただ、最後に、確認をしておきたかった。


「ココンさん。一つ聞きたいんだけどさ

「なんですか? 浅葱くん」


 僕は引き金に指をかけた。


「もしこれで色々何とかなったらさ、僕と一緒にお昼とか食べてくれる?」


 これは立派な脅迫行為だ。

 彼女がその条件を吞むしかないのを知っていて、僕はわざわざ問いかけた。

『条件を呑まなければ撃たないぞ』と、普通想像されるものとは真逆な脅しを口に、少し震える指先に、僕は決意を込めていく。


 そんな僕の問いに、彼女ははにかむように笑いながら答えた。


「ええ! なんならジュースも付けますよ!」

「ああ、それなら悪くないね!」


 銃の引き金を引く。

 ここまで遅かった、なんておかしな感慨を抱きつつ。


 銃声は、盛大に響き渡った。




 ◆




 正しい意味で、いつも通りの教室。

 机が一つ増えている。これは、増えたのではなく、元に戻ったのだ。


 一列目の最後尾から一つ前──、つまり教室を俯瞰したとするとき、右下の隅の一つ前。

 そこに、彼女の席があった。


 いつも通りの賑わいの席。クラスメイトと、他愛のない世間話をして笑っているのを見た。


 よかったな、と思う。

 そして、何かを期待する半面、不安な僕もいた。


 それは心配性な自分のいつものことで、平常を装うことでいつも通りのどこか気だるげな自分を演出している。


 四限目の終業のチャイムが鳴った。

 起立と礼を済ませて、先生の背をいつものように見守る余裕もなく、僕は即座に椅子に座った。


 朝に銃をぶっぱなしたからだろうか。

 心臓が、跳ね上がるように躍動をする。

 いまさら銃撃の恐怖が迫ってきたとでもいうのかと言われれば、それは多分違う。


 昼休みの始まり。

 思い思いに席に立ち、弁当箱を取り出して友人とどこかへ向かう人、そのまま適当に談笑をする人、購買へ走っていく人、さまざまな人間に紛れて、彼女が消えてしまわないように天に祈って――。


「なにこっちみてるんですか、浅葱くん」


 彼女は片手にお弁当包みをひっさげて、いたずらっぽい笑みを浮かべて、僕の席の前に立っていた。


 ――僕を銃撃犯とするなら、彼女は密輸人だ。

 銃で撃たれて、撃たされて。この秘密はきっと袴で持っていくのだから、共犯者、という言葉はこの関係に相応しいのだと思う。


 脅し脅される、絶妙な関係。

 その関係が成り立ったのは、あの病と銃があったからだ。


 無言の僕を前に、不敵に笑みを浮かべ、弁当包みを僕の机に置いた彼女は、対面に椅子を引っ張り出してから、言った。



「一緒にいただきます、しましょ?」



 その瞬間、やっと僕は引き金を引いたことを。

 青春の引き金を、ようやく引けたことを、自覚するのだった。




























約三十日ぶりの投稿!

一章完! 続ッ!!!

実は今、この小説をベースとした新人賞応募作品を書いていて、その影響で著しく更新速度が落ちています。申し訳ない。ふと頭に過ったので、一章だけでも終わらせておこうとパパっと書きました。

原稿が完成したら、本格的に投稿を再開させていきます。もし賞を獲って編集者さんが付く――、なんてことがあったりしたらこのサイトから削除するかもしれませんが、少なくとも来年までは続ける所存です。

とりあえず本編の続きは、新人賞の原稿を書き終えてからということになります。

活動報告で書くべき内容ですが、読者の皆様に知ってもらいたくて書かせていただきました。


目指すは2025年までの作家デビュー! です。

ツイッターもやってますので、たまに思い出してやってください。


以上、かんことりでした。








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― 新着の感想 ―
[一言] 一章完結、お疲れ様です。 この作品と出会えて本当に良かった。
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