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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』

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12/18

#11『ドクター』

 視界の果てまで並ぶ建物、目もくらむようなその数と、まるで山脈みたいなその重量。

 朝だというのにお構いなしに光る大型の電光掲示板には今噂のベンチャー企業や商品、漫画の宣伝が盛大に行われている。

 仙台はもう東京に勝らずとも劣らない大都市なのではないか。

 何度この空気を味わっても、田舎から越してきたものだからまだ馴染めない。


 天気は雲一つない快晴。太陽は憎たらしいほどに輝いている。


 仙台の街並みは当然土曜日、やはり休日と言うこともあって人が多い。

 人と人とで大混雑を起こしている。いわば迷路だ。


 平日でもそれは変わらないが、特に楽しそうな声が多い。

 何処かに遊びに行くのか、若者たちの取り留めのない言葉の束。

 手を繋いでどこへ行くのか、楽しげに会話をする男女。

 人の足音や車の音が奏でる生活の喧騒。普段なら日常の一幕として締めくくられるそれが、どうにも気にくわない。


 誰も彼女のことを認識していないから、彼女は落ち着きのない男にぶつかりかけた。この大都会の雑踏の中、誰の配慮も受けられない彼女は、誰かとぶつかって容易に怪我をするリスクがある。男は誰しも一度は透明人間になることを夢見るものだが、だれにも認識されないということは存外辛いことのようだ。


「ココンさん、手」

「……ぇ、あっ」


 彼女の了承を置いて手を握る。僕の後にできる道を歩けば、誰かとぶつかるリスクは減らせるだろう。

 おまけに万が一転びそうになっても僕のバランス感覚次第では彼女を助けられるときた。それなら、彼女と手を繋いだ方がよっぽどいい。

 それはそれとして彼女の白い手から伝わる女の子特有の柔らかな掌の感触がとても男の心臓に悪い物であることは一旦置いておく。一度手を繋いだ手前、離すわけにもいかなかった。


「浅葱くん。……その、手」

「こうしないと危ないでしょ。嫌だったらごめん」

「違くて、その。……ありがとうございます」

「どういたしまして」


 雑踏をいち早く抜けるために足早に駆ける。

 目的地はもう少しだ。

 目的地は探偵事務所。ココンさんのアルバイト先でもあり、『ドクター』がいるとされる場所でもある。


「というか、医者が探偵を兼業してるって何?」


 僕はふと、疑問に思ったことを聞いた。

 どうやら話によると、探偵業を営みつつ、医者をやっているらしい。

 何故その二つが両立しているのか、聞けばココンさんは微妙な表情をした。


「あー。探偵業は殆ど飾りですよ。世を忍ぶ仮初の姿ってやつです。本人は探偵ごっこをしたかったそうです」

「探偵ごっこって……」

「まぁ名目上だけですよ。しっかりと医者なので、腕だけは確かです。私も真っ先に頼ったんですけど、その……認識してもらえなくて」


 件の探偵事務所、『渡辺探偵事務所』が見えたあたりで、二人そろって立ち止まる。

 そこは都会の中でも埋もれないレンガ調のデザインの建物で、温かみのある色が存在感を放っている。

 僕が想定する一般的な探偵事務所とは少し異なっているようだ。

 一階は喫茶店になっていることが、軒先テントとはためくのぼり旗が知らせてくる。

 だから、僕たちが行くべき場所は二階だ。


 喫茶店の入り口の脇に見える階段。それが探偵事務所へと続く道らしい。

 ココンさんが顎で示したので、すぐにわかった。


「ごめん、手離すね」

「ん、ぁ、はい。そうですね」


 僕が手を離せば、彼女は自由になった手であの階段を指さした後、僕の前に立った。

 先導するつもりであるらしい。僕はそれに無言で応じて、階段を一段ずつ登っていく。


「こういう場所初めてだから緊張するな……」

「大丈夫ですよ。こういうときは諦めて最善に徹すれば意外とどうにかなるもんです」

「まぁ頑張らせていただくよ」

「よろしくお願いしますよ。共犯者さん」


 薄暗い照明で照らされた階段をのぼりながら、彼女が笑うから、僕も『仕方ないなぁ』といった風に嘆息する。

 階段を上り切った先で、立ち止まる。

 そこには重厚なドアがあった。思わず開けるのをためらってしまうような威厳を漂わせるドアである。


 脇には『営業中。御用の方は中へどうぞ』と書いてある看板があった。

 後は、開けるだけなのに、ドアノブに向かってあまり手が伸びない。


 職員室の扉を開けるとき、謎に緊張するあの現象と同じである。

 経験がないとは言わせない。入室した空気の気流の乱れだけでクソ雑魚だとバレるあの瞬間を。


「こ、怖えぇ……ッ!」

「ここまで来てビビるんですか浅葱くん。開けるしかないというのに」

「職員室の扉と同じプレッシャーを放ってるんだよコイツは! めちゃんこ怖いじゃないか!」

「まったくビビりですねぇ。しょうがないここは私が勢いよく開けてあげましょう」

「ちょっ、待っ、僕にも心の準備というものが──」

「──はいドーン!」


 彼女は思いっきり扉を開いた。

 勢いよく開かれた扉に、注目が集まるのは当然だというのに。


(こいつやりやがったッ!?)


 僕の心境とは裏腹に彼女はにこにこと笑っていた。

 しかし、こちらに視線が向くのは思いのほか遅い。


 探偵事務所の室内には、『ドクター』とでも名乗りそうな大人の人間は見当たらず、奥に用意された所長専用の執務スペースには座っている人間が一人もいない。

 あるのは接客用のソファーに座り、机の上に整然と置かれた問題集をシャーペン片手に解く少女の姿だ。


 随分集中していた様子だったからだと思う。

 盛大に音を立てていたというのに、一秒、二秒、──ようやく三秒目で、扉が開いていることに気づき、室内の少女は俺が立っていることを認識した。


 僕たちと同年代、あるいは一つ上であろう、顔のパーツがとにかく『かわいい』女の子であった。

 彼女はこちらに視線を向け、驚いた様子で目を広げる。


「わっ、お客さん!?」

「あっはいそうです」

「ちょっと座って待ってて! 多分先生寝てるからっ! ──起こしてくる!」


 小麦色のワンサイドアップが特徴の少女は、あわただしい様子で執務席の脇の扉を開け、上階へと続く階段を駆けて行った。

 あわただしい少女が居なくなって、扉の前に立つ僕たちに訪れるのは沈静。


 彼女はそのまま中に入ったので、僕も何となくそれに続いた。

 ココンさんは、どかっとソファーに座った。僕も隣に座る。


「ココンさん、さっきの人って知り合い?」

「先輩です。この前来た時はいなかったので期待してましたが、あの調子だと見えてませんね。大きな音にあそこまで反応が鈍いことはありえませんし」

「……そっかぁ」


 どこか寂しげに呟く彼女に、僕は帰すことしかできない。


「そういえば、ココンさんが見える条件って何だろうね?」


 話題を変える意味でも、僕は何となく気になっていたこと言ってみた。

 それに対して、彼女は思案するように顎に手を当てて呟いた。


「……私と関わりがあった人、とか?」

「それだとさっきの先輩の人が見えなかったのがおかしいくない? そもそも見える僕だってココンさんと知り合って数日だよ?」

「そうですね。じゃあ、ヘッドホン? 私が見えるには、何かそういう『きっかけ』が必要なのかもしれません」

「なるほど。きっかけかぁ。それさえあれば僕以外にもココンさんが見えるかもしれないよなぁ。あ、僕のヘッドホンを他の人に貸すことってできないのかな?」


 なんとなしに首にヘッドホンを顕現させながら問いかけると、彼女は首を横に振る。


「……可能か不可能かで言えば可能ですけど。『病』は個人のものですから。他人が扱える代物ではありませんよ。『病』に呑まれて終わりです。私みたいに」

「うーん。いい案だと思ったんだけど──」


 そういい終えるより先に、ドアがバンっと勢いよく開かれる。

 そこから赤いポニーテールを揺らしながら、カツカツと足音を鳴らしながら足早にこちらに近づく長身の女性の姿があった。

 スーツの上に白衣を着てはいるが、白衣のボタンは留められておらず、ネクタイはどこか曲がっていて、なんとなく不真面目な印象を漂わせる。

 顔立ちは整っている、が特筆すべき点はその目だろう。


 視線だけで人を殺した経験がありそうな三白眼。

 こちらをひとしきり見た後「ほう」と息を漏らして、俺たちの対面のソファーに座った。


「浅葱くん頼みますよ、割とここが正念場です」


 僕以外に見えていない彼女の呟き。

 もとより返事は期待していないのだろうが、目の前の女性の耳には届いていたらしい。


「ガキんちょ共。最近私は物忘れが酷くてね。頭に霧がかかったように何かを忘れている気がするんだ」


 座った彼女は憂鬱そうに呟きながら、懐から銃を取り出した。

 突然のことだった。


 それは拳銃だ。

 構えるわけでもなく、ただ片手に持っているだけ。

 でもそれは十分な凶器だ。


 僕が事態を把握しようとココンさんを横目で見ると、彼女はこちらの視線に気づいた後、無言で首を振った。どういう意図なのか、それを考えるより先に目の前の女性の話は続く。


「私の事務所にはもう一人助手が居たような居なかったような。どうにもそれが曖昧でな、実は最近困ってる。──……で、私の冴えた勘は言っている。私の“物忘れ”にお前らが関係しているのではないかと」


 彼女は拳銃を持ったままソファーに寄りかかり、あくびをしながら背伸びをする。

 何処かけだるげな、鋭い目つきと相まって、まるでめんどくさそうなハリネズミのように彼女が見えた。

 それから何かに気づいたように、彼女は続けて補足した。


「あ、脅しじゃねぇし撃たねぇよ? どうせ『病』絡みなんだろ。おねーさんが聞いてやるから話してみろ。大体何とかしてやるよ」


 それから一息置いてから、彼女は思い出したように「自己紹介はまだだったか」と笑いながら応じる。


「私の名前はドクター渡辺。渡辺さんでも渡辺先生でもドクターでも呼び方はいろいろあるが、まぁ好きに呼べ。さて、()()()は──」

「あ、あの。見えてるんですか? それだと色々前提が違ってくるというかなんというか。……見えてます?」


 ココンさんは恐る恐る自分を指さしながら聞く。

 それに対して何でもないように渡辺さんは返した。


「ん? ああ、何を当たり前のことを──……ん、待て。それ関係か?」 


「ふむ」と唸って彼女は顎に手を当てたが、数秒の思考の後、考えることを放棄したらしい。


「昔から推理は苦手なんだよ。ほら、お前らからキリキリと情報吐け」


 じゃあ何でアンタ探偵やってんだ。

 僕のツッコみはきっと間違っていないだろうけど、考えても無駄なので諦めて僕たちが置かれている状況について説明することにした。















執筆速度がおせぇ。これから精進していきたい。

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