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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』

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10/18

#9願望と器

不定期でごめんね

 ダイニングテーブルの向かいに座る彼女は、マグカップに入ったコーヒーに少し大げさともいえる量のミルクと砂糖とガムシロップを入れた。ドポポ、と勢いよく音を立ててコーヒーに飛び込むそれらを見て、僕は声を上げざるを得なかった。


「えぇ……?」

「何ですか?」

「いや、入れすぎじゃない?」

「この量が一番美味しいんです。あ、浅葱くんもやってみます?」

「そもそも飲み物が違うし。僕はホットミルクで十分です」


 ココンさんによって用意されたホットミルクを、僕は口に傾ける。

「む、残念です」とどこかしょぼくれた彼女は、コーヒースプーンで内容物をかき混ぜてから、一息にそれを飲み切った。もうカップに中身は無い。一瞬の出来事だった。


「なんですかその顔は」

「……糖分の取りすぎには気を付けなよ」

「……? はい。日ごろから気を使ってます」

(日ごろから気を使ってる人は糖分マシマシのコーヒーを一息で飲み切らないんだよッ!!)


 天然なのか素なのか、平然と言ってのけるココンさんに、僕は内心で突っ込んだ。

 だけど、ここで無駄にツッコみを入れて、本題から話が逸れるのは困る。

 傾けていたコップを机に置き、僕はとっとと本題を切り出すことにした。


「……まあ、それは置いておいて」


 念のため、首にヘッドホンを顕現させた状態で。


「──詳しく話が聞きたいんだよね。コレについて」


 ヘッドホンを指で叩きながら、僕は彼女に問いかけた。

 彼女は僕の質問に対して、顎に手を当て考え込むようなしぐさをしながら話す。


「『病』とは説明しましたっけ?」

「うん。逆に僕はそれくらいしか知らない。ココンさんが暴れたのにも関係あるんでしょ?」

「その節は本当にごめんなさい……まぁ、端的に『病』のことを述べるなら“願望器(がんぼうき)”という表現が一番似合いますね」

「“願望器”?」


 聞き慣れぬ言葉を思わず繰り返すと、彼女は「ええ」と頷いて、マグカップを口に傾け──、飲み切ったことを忘れていたのだろう。ぱちっ、と目を瞬くと、嘆息してカップを机に置いた。


「人の心の根底にある“欲求”や“願望”。それに対して、どうしようもない困難や葛藤といった“問題”を解決する手段として発病するのが『病』です」


 彼女は片目を閉じて僕のヘッドホンを視界に捉えながら続ける。


「『病』にもいくつかの分類はありますが、形状から機能を特定できるものが一番多いです。浅葱くんは“問題”に直面したとき、きっと“聴きたい”と望んだのでしょう。その願いを実現するのが『病』です」


 正確には、病の『症状』か。と、彼女は絶妙に言葉を付け足して、僕の反応を待った。


「……なんていうか、『超能力者』みたいな力だよね──?」

「はいその通り」


 ──『超能力者』。

 テレビやらで聞きなじみのあるその言葉をつぶやくと、彼女は僕の顔を指さして、冴えてますねと言わんばかりに彼女は笑みを深くした。


「最近特集組まれてますよね。50メートルを3秒で走る超人、手をかざすだけで傷を癒す聖女、鉄筋のコンクリートを砕く怪人。『超能力者』と、世間で称される彼らも──“同様に病んでいる”」


 彼女はマグカップ片手に椅子から立ち上がった、どうやらまたあの超絶甘党コーヒーを作る予定らしく、トポポ、コーヒーが入れられる音が聞こえる。

 何を言うべきか分からずに、僕はホットミルクを口に傾けた。


「言ったでしょう。“世界は健やかに病んでいる”。徐々に病は現代に浸透しつつあります。その進行を食い止めるのが私の仕事であったわけですが、見事にやらかしちゃいましてねぇ。副作用のせいで、現状浅葱くんしか私の姿を認識できないらしいと。まったく困ったもんです」


 言いながら彼女はコーヒーを片手に机に戻ってくる。

 椅子に座ると、彼女は先ほどと同じ手順で超絶甘党コーヒーを作り出した。

 そしてカップを自らに傾けて、幸せそうな表情を彼女は浮かべる。


「甘すぎないの、それ?」

「丁度いいんですよ、私にとっては」

「味覚バグってんじゃないの、それ」

「別にいいじゃないですか。あ、あとスマホ持ってます? 連絡先交換したいんで」

「ん? あ、そっか。──はい」


 彼女がこちらに手を差し出し、渡すように要求したのでバックから取り出したスマホを素直にその手に預けると、ダイニングテーブルに置きっぱなしであった自身のスマホで、手早く連絡先を交換したようであった。


 見ればLIMEの友達の数が、1つ増えている。


「ありがとうココンさん。これでLIMEの異性の友達の数がお母さんを含めて2人になった」

「なにナチュラルにお母さんを異性の枠組みに入れてるんですか。諦めてください貴方に異性の友達は一人しかいません」

「現実を突きつけるなよココンさん。流石の僕にも傷つく心があるんだ」

「ていうかそもそも友達の数も──」

「言うな。言わないでくれよココンさん。気にしてるんだからッ!」


 友達の数は未だ一桁。

 寂しいLIMEのトーク画面を見て嘆息。僕はスマホを懐にしまった。


「あ、あとほかに渡さないといけないものがあります」


 彼女はリビングに無造作に放り投げてあった通学用のカバンをがさこそと漁り、取り出したものを僕に手渡す。それを一目見て、理解は出来た。しかし、彼女に問いただしたかった。


「……ナニコレ」

「催涙スプレーとスタンガンです。護身用に持ってたんですけど浅葱くんの方が必要っぽいのであげます。弱いですし、浅葱くん」

「それは、まぁ、そうだね……?」

「あ、これは合法なので安心してください。街中で使ってもしょっぴかれることはありません。私がまた『暴走』したら迷わず使ってください。浅葱くんが傷つく前に」

「……うん」


 心配そうにそこだけ念押しするから、僕も思わず頷いてしまった。

 彼女の瞳が怯えるように揺れるから、俺も頷かざるをえなかった。


「あ、あと浅葱くんの飲み物に身体の回復を促進するお薬を入れておいたんで、明日の朝には結構元気になってると思いますよ」

「……オクスリ?」

「大丈夫です。私もバイトで怪我した時によく飲むやつなので」

「入れるとしても事前に言っておいて欲しかったなぁ……?」


 彼女の言葉を肯定するように、何故だか体の痛みが引いているのだから困る。

 異物混入もいいところだが、僕はもう色々と諦めることにした。


「まぁ、効果は私が保証しますよ。明日の朝には元気いっぱいです!」

「それはよかったよ。それで結局、明日はどこに行くの?」

「浅葱くんから言ってくれるんですね」


 ふふ、と彼女は嬉しそうに笑って言った。



「──『ドクター』に会いに行きます」



 僕が怪我した直後に行けよ。

 そんな心中で突っ込んでしまった僕は絶対に悪くない。















※後の話に詳細な説明有り


『病』ー強い欲求や願望に対して、困難や葛藤が生じた時に、問題を解決する手段として発症する。形状は様々。

分類の1つに「形状から能力が予測出来る」種がある。

『症状』ー『病』の特殊能力を指す。

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