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青春シルバーバレット  作者: 最条真
1st『引き金を引く』
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#0妖怪、ビビりすぎ侍

よろしくお願いします。

私が思うローファンタジー×青春の物語を書きました。

『銃刀法違反を犯したクラスメイトに、拳銃を押し付けられました。僕はどうするべきでしょうか?』



 答え。

 ――思考がまとまるわけないでしょ馬鹿なの?



 経緯としては単純で、教室にて現在の不況を心中で嘆きまくっていたところ、見知った女子生徒に腕を掴まれ、無理やり屋上に連行されたのだ。

 経緯はわかって貰えただろうが、理屈が全然分からない。

 俺の手に握られているのは拳銃で、その銃口はついこの間知り合ったばかりのクラスメイトに向けられている。

 銀色のショートヘアーが特徴的で、きっと美少女と形容する言葉は彼女に相違ない。


 正確に、更に状況を述べるのであれば、銃口を向けているのではなく、向けさせられている。 

 銃口部分は彼女の手で握られ、それならば銃から手を離して逃げればいいモノを、彼女の頭の上に鎮座するものが、僕の逃亡を許さなかった。


「撃てますよね?」

「いきなり無理に決まってるよね馬鹿なの?」


 彼女の頭には、一つの『病』があった。

 彼女の頭に載っている紺色の王冠。王冠にはどういう訳か、目がある。

 一つ目だ。眼球じゃなくて、ただの目。のっぺりとした目が、王冠に張り付いているのだ。

 それは、ギョロギョロと辺りを探るように視線を動かして、既に僕を捉えていた。

 睨まれている。足が動かない。


「そういう約束じゃないですか」

「……そうだけど! いきなり銃渡されてさぁ! 撃てってあんまりじゃん!」

「ほら、はーやーく」


 彼女は軽口を言うようにそう笑いながらも、銃口を固定する指だけは放さない。

 僕は銃を握っている。握らされている。手には確かに、鉄の実感がある。

 理屈ではなく本能が、これを実銃であることを理解させてきた。

 

 引き金を引いたら、銃弾が放たれて、もしかしたら、この『病』を消し飛ばせるのかもしれない。



 ――常識的に考えて、撃てるわけがない。



 多分これは本物の銃で、僕は無力な高校生。

 僕は銃撃犯になるつもりはない。 

 

 でも残念なことに、約束をしたのは事実で。


「『共犯者』でしょう? 私たち」

「ああ、そうだったね」


 嘆息をした。彼女はそれを見て花のような笑みを羽化得た。

 銃口を掴んでいない方の手で、自身の王冠を指さして――。


「じゃあ、撃ってくれます?」

「……分かったよ」


 抵抗に意味はない。

 決意を指先に込める。

 だけど怖くなって、目を瞑って、一つ聞いた。


「一つ聞きたいんだけどさ」

「なんですか? 浅葱くん」

「もし、これで色々なんとかなったらさぁ! 僕とお昼食べてくれる!?」

「ええ、なんならジュースも付けますよ」

「ああ、それなら悪くないね!」


 銃撃犯になるリスク。彼女とお昼を共にする報酬。

 天秤は後者に傾いた。

 

 『病』を殺すための、銀色の弾丸を放つ。


 ――これは、僕が引き金を引くまでの物語だ。


 



 

 












『人が「あ、終わったわコレ」と感じるのはいつでしょうか?』



 答え。

 ――入学初日の自己紹介で盛大にやらかしたときに決まってんだろ。



 春。

 出会いと別れ、その日は出会いの日だった。


 実に早い放課後。入学初日ということで、主だったイベントは入学式と諸連絡と自己紹介くらいなものだった。

 

 昼。

 興奮冷めやらぬ、1年B組の教室にて。

 耳を澄ませば、早速聞こえてくるクラスメイトの喋り声。


「カラオケいこーぜ」

「マックいこマック」

「タピオカのみいこタピオカ―」


 ――仲良くなるの早すぎないかお前ら。


 嘘みたいだが、これが入学初日。

 いくつかのグループが、早くも形成され、早くもどこに行くか話しているようだった。


 ちなみに、俺は机に突っ伏し、その会話を羨ましそうに聞いているだけだった。

 やがて、それらのグループは去っていく。早くもグループを形成する社交性が、少し羨ましい。

 

 親元離れ、地元から遠く離れた東京にて、学校の寮にて一人暮らしを始めることになった俺こと、浅葱虎徹(あさぎこてつ)は、残念でもなく実に順当に孤立していた。

 

 客観的に見たら、どっからどう見ても『ぼっち』であった。


 そりゃ、まぁ。


(自己紹介で特技が『勉強』なんてヤツと、関わりたくないわなぁ……)


 名前と、好きなものと、特技。

 自己紹介の必須事項がそれで、どうにも俺は滑ったらしい。


 あと高校デビューのために張り切りすぎたのが良くなかったかのかもしれない。

 髪型をワックスを付けワイルドに決め、眼鏡もかっこいい物を新調し、本格的に一人称を僕から俺に変えた。頑張ったのに、まぁ現実はクソであった。


 ほかにも特技くらい用意しておけばよかった。

 勉強でどうにかなるわけないだろうが。


 本当に特技がそれしかない、自分の浅さに少々自己嫌悪。

 勉強しかすることと出来ることがなくて、都心に憧れていた俺が寮のある学校を選んだのは良い。

 ただ、孤立するのはどうよと。俺は思うのである。


 入学早々ぼっち。これでは涙ながらに送り出してくれた両親に申し訳が立たない。

 だから、どうにか友達を作ろう。そしてどうにか、青春を送ろう。


(――明日から!)


 だって、教室に誰もいないし、今日頑張ったって仕方ないし。


「うんうん。仕方ない仕方ない……」




 


 ――約2週間後。


 夕方。

 いつかと同じような放課後。

 水曜日、部活がないことで浮足立つ面々は、いつも通り遊びに行く相談をしていた。 

  

「ボウリングいこーぜ」

「鬼ごっこしよ鬼ごっこ」

「モンエナのみいこモンエナ―」


 ――完全に機を逃した。


 正直に白状すれば、チャンスはあった。

 消しゴムを落とした時には隣の女子に拾ってもらえたし、班活動の際にはクラスメイトと喋る機会があったし、学食に誘われた時すらあった(なお俺は財布を忘れた)。

 

(おアァァァッ!? 何やってんだ俺ッ!!)


 親元離れ、地元から遠く離れた東京にて、学校の寮にて一人暮らしを始めることになった俺こと、浅葱虎徹(あさぎこてつ)は、残念でもなく実に順当に、2週間経っても相変わらず孤立していた。


(財布ッ! 忘れんなよッ!! アホがッ!!!)


 財布さえ、財布さえ、忘れなければ。

 流石に、今の状況は回避できていただろうに。


 自分の席にて頭を抱え込んでいると、いつの間にか喧騒は消えていた。

 遊びの相談をしていた彼らは、早速学校から飛び出していったようだ。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れた。

 両腕を枕のようにして、机に突っ伏す。


 明日から頑張ろうと、何度諦めて、何度先延ばしにしたのか。

 数えきれないほど何度も、実際に行動に移すには億劫で、伸ばした手で宙を握った。


 人と関わるのは怖いことじゃない。

 ただ、最初の一歩が死ぬほど怖いだけだと、頭では分かっている。


 失敗するより、何もしないことの方が怖いのに、一人ぼっちの青春を送っている現状。

 

 人が話しかけてくれることを待つのは悪いことじゃない。

 ただ、偶然に頼るのなら、それが自らに降ってこない可能性も考慮すべきなのだ。


 頑張ると、心中だけで思いを口にして。

 形だけの努力目標は、未達成を心がとっくに諦め気味。

 

 偶然という奇跡を、怠惰な心が待ち望んで。

 それは一度降りかかって、どうにも以後に降る気配すらない。

 

 何も変わらない、憂うつな現状にふと、と思う。


「……このままでいいわけがないよなぁ」って。


 でも、現状を変えるには勇気が必要で。

 偶然に頼る以外の手段を、どうにも俺は持ち合わせていないらしい。


 ――そんなんだから、友達出来ないんだろうが、馬鹿。



「……帰るか」



 心の叫びも、今は聞こえないふりをして。




 ――スクールバックを肩に提げて、ひとりぼっちの教室を俺は後にした。




次話は明日の22時に投稿予定です。

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