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破壊者たちの正義の裁き  作者: misato
第一章
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善良な薬売り


女は空腹だった。体は痩せ、血の気のない顔色。女が歩く道には家のない者が住んでいた。子供にお年寄り。この土地は世界から見捨てられた者が集まっている。何も持たずに生まれてきた者たちだ。女は様子を見ながら道を歩く。

そして一人の少年を見つけた。彼は痩せ、殴られたのか怪我を負っていた。ここに住む者は生きるために町へ出て物請いをしたり盗みを働く。失敗すると、ああしてひどい怪我をするのだ。

女は少年に近づき声をかける。

「大丈夫ですか?ちょっと待って下さいね、薬を持ってますから」

女は懐から塗り薬を取り出し少年の腕に塗る。少年は弱々しく呟いた。

「いい、いらない………怪我が治っても意味がないんだ………どうせもう死ぬ………」

少年は何日も食べていなかった。少年の言葉に女は緊張気味に微笑む。

「お腹が空いてるんですね。私の家には食べ物があります。うちに来ますか?」

少年は不思議に思った。女の身なりは普通だ。薬を持っているくらいだから普通の生活はしているだろう。なのに女は痩せ細り、顔色もよくない。しっかり食べているようには見えない。

それでも少年は女についていくことにした。動けない少年をおんぶし、女は必死に歩いた。


女の家には物が少なかった。長く生活しているようには見えない。それでも女は少年に果物を出した。少年は顔を怪我しており、痛みをこらえながらも果物を食べ始める。その様子を見守りながら女は涙を流す。

「………なんで泣いてるの?」

少年は女に聞いた。女は涙を拭いながら、少年にこう答える。

「だって私は、これからあなたを殺すのよ」



ハチとナナは小さな村へ足を運んでいた。キササゲの街へは少々遠回りになってしまうが、良く効く薬を売っている薬売りがいるとの噂を聞いてやってきたのだ。畑が広がり、小さな集落があるだけの質素な村だった。

ハチは畑仕事をしている年配の男性に声をかけた。

「すみません、この辺りに薬を売っている人がいるって聞いて来たんですけど、ご存知ですか?」

男性はああ、と頷いて教えてくれる。

「この先に民家があるのが見えるだろ、だいたいあの辺りで売ってるよ。旅の人かい?珍しいね、この村には人がほとんど来ないんだが」

「良い薬だって聞いたけど、お客は来ないの?」

「あれは頻繁に町に売りに出掛けてるからな。知ってる人はわざわざここまで買いに来ないさ」

男性にお礼を伝え二人は先へ進んだ。


道なりに進むと民家がぽつぽつと建っており、道中に簡素な机で作業している人の姿が見えた。机には「薬売ってます」と書かれた立札があった。

店番をしていたのは10才ほどの少年だった。ハチは少年に声をかける。

「こんにちは、傷薬を売ってるって聞いてきたんだけど、ここで合ってる?」

少年は薬草の葉と根を分けているようだ。彼は二人を見て無愛想に答える。

「そうだよ。何個欲しいの?」

少年は小さな箱から貝殻を取り出す。値段は思ったよりも安かった。

「君が作ってるの?」

その質問に少年はハチを睨む。

「手伝ってるだけでちゃんとした人が作ってるよ。心配なら買わないことだね」

どうやら彼の気にさわったようだとハチは頭をかく。そこへ一人の年配の男がやってきた。親しそうに少年へ声をかける。

「今日はオリバーか。いつもの薬を頼むよ」

オリバーと呼ばれた少年は小さな箱からさっきとは違う紙の包みを取り出す。

「お前んとこの薬は体に良くてみんな有り難がってるよ。しかし久しぶりにミセリアを見たが、薬屋なのに相変わらず顔色が悪いなあ」

オリバーは勘定をしながら変わらず無愛想に会話を続ける。

「あの人はずっとあの顔色だからね。何しても変わらないでしょ」

「ははっ、それもそうか。そろそろヤナギたちが帰ってくるのか?いろいろ買い物してたが」

「普通なら今日か明日くらいに帰ってくるはずだけど」

「お前も早くついて行きたいだろ、顔に出てる」

オリバーはムッとした表情になり男性を冷たくあしらう。

「用事が済んだなら早く家に戻りなよ。どうせまだ仕事があるんだろ」

「お前は母ちゃんみたいなこと言うなぁ。じゃあまたよろしくなー」

男性は笑いながら去っていった。それを見送りオリバーは二人に視線を向ける。

「で、何?まだなんか用?」

「ああ、さっきの人が買ったのは粉薬か?」

「そうだよ。疲労回復、健康維持。まあ栄養薬だね」

薬は高価なものだ。この村の住人が普段から買えるような物ではないだろう。そもそも薬屋がこんなに人の少ない土地にいること事態がとても希少だった。

「ずいぶん安く売ってるんだな」

オリバーの服装を見ても至って普通だった。贅沢をしているようには見えない。

「これを作ってる人がお人好しなんだよ。薬は高すぎて庶民には手が出せないから、誰でも買えるような値段にしてるんだ」

「へー、良い人なんだな」

オリバーはどことなく誇らしげだった。


薬を手にいれた二人は少年と別れ歩き出す。遠くに三人の人影が見えた。

「ハチ」

ナナがそうハチの名を呼ぶと、ハチは前方の三人へ目を向ける。女性と、少女が二人。楽しそうに会話をしながらこちらへ歩いてくる。

ハチの視線に気付いたのか、女ははっと二人を見て顔色を変えた。女はナナに視線を向けたのち、緊張の面持ちで視線を逸らした。

すれ違いざまにハチは振り返り女を見る。彼女たちはオリバーと親しげに話を始めた。

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