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破壊者たちの正義の裁き  作者: misato
第一章
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「私はナバリ、特殊警備隊の一員さ」

ハチとナナに緊張が走った。ナナは一歩あとずさり、ハチはナナをかばうように女と対峙する。

その様子を見てナバリはわざとらしく首をかしげた。

「ふむ、おかしいな。特殊警備隊は市民から信頼を寄せられる存在であると認識してるのだが………あぁ、そうか、昨日の事件のことなら心配はいらないよ。君たちを捕まえにきたわけじゃない。言っただろう、私は君たちの味方だと」

確かに殺意や敵意は感じなかった。けれどハチは警戒を解かない。

「特殊警備隊が俺たちに何の用だ?」

ナバリは笑顔を崩さずコクラを見る。

「その少女のこれからについて、君たちと話がしたい」


四人は重い空気の中食事をとっていた。空気の重さを気にしていないのはナバリだけだった。

「じゃあまずは昨日の事件について話をしよう。君たちが立ち去った後で私は警備隊と共に奴らを拘束した。そしてあの場にいなかった奴らの仲間も昨夜のうちに捕まえることに成功している。なあに感謝などいらないぞ、悪を捕まえることは警備隊の役目だからな。まあ私は所属が違うが」

誰の反応がなくてもお構い無しに続ける。

「そしてちょっと拷問……いや、取り調べをさせてもらってな。どうやらこの町の権力者と資産家がおいたをしていたらしい。これ以上は機密事項になるから話せないが、売人共は君の能力を使って町全体を人質にとるつもりだったみたいだ。バカな奴だ、権力者の悪人など市民がどうなろうと構わん奴らばかりだ。脅しになんてなるわけがない」

ナバリの言葉に負の感情をみた。悪人を憎む気持ちがハチに伝わる。

硬い表情は一瞬で消え、ナバリはいつもの得たいの知れない笑顔に戻る。

「そして今日の朝方、悪者の親玉たちも無事逮捕されている。一件落着だ。昨夜の事件で死者も出ていたが、まあそれは君たちのせいじゃないことはわかっている。安心してくれ」

するとナバリは思い出し笑いをはじめた。

「しかし君には驚いたよ。君だろ?生きてる奴の足の腱を切ったのは。警備隊員は引いていたぞ」

意識を取り戻した奴が逃げられないようにするためだった。ナバリは顔の前で手を組みハチを見つめる。ナバリの目には不気味な光が宿っていた。

「良いね、とても良い。君はちゃんと狂ってる」

ハチは眉を寄せ、ナナは表情を変えない。

ナバリは一度手を叩くと雰囲気を一変させる。

「さて、本題はここからだ。私はそこの少女を勧誘に来たんだよ」

ナバリの視線はコクラへと向けられる。

「君は能力者だ。特殊警備隊へ来ることをおすすめする」

その言葉にハチは反論した。

「待て、特殊警備隊は悪魔退治が仕事だろ、危なすぎる。まだ子供だぞ」

「彼女と同じくらいの子供もいる。それに何もすぐに現場に行かせたりはしないさ」

ナバリはコクラを見つめる。

「君は今、ちゃんと力を制御出来ていないはずだ。その力はきちんと扱えるようになった方がいい。うちに来れば君と同じ能力者がたくさんいる。力のコントロールの仕方を教えてくれる、君にとってとても良い環境だと私は思う」

ナバリは続ける。

「なあに心配はいらない。ちょっと変な奴が多いが根は良い奴らばかりだ。きっと君も好きになるよ。戦闘が不向きだと判断されれば悪魔と戦うこともない。うちには仕事が山ほどあるからね。

でも強制はしない。君にとって辛いこともたくさん起きるだろう。君の人生だ、君自身で決めてくれ」

コクラには戦いという場にいてほしくないとハチは思った。けれど彼女のことを思うと反対は出来なかった。コクラには居場所がない。一緒に連れていくことも出来ない。危険に巻き込んでしまうから。

コクラはハチを見上げた。どうするべきかわからなかったからだ。

ハチは気持ちを押し殺してコクラに告げる。

「俺たちとは一緒に行けない。もし特殊警備隊に行くのが嫌ならお前を引き受けてくれる施設を探してやる。どうするかはお前が決めろ」

コクラにとっては辛い現実だった。コクラは二人と一緒にいたかった。現実はいつも甘くない。

黙り込むコクラを見てナバリは口を開く。

「考える時間が必要だな。夕刻にまたここで会おう。それまでにどうするか考えておいてくれ」

そう言い残し彼女は立ち去った。


三人は町外れに小さな墓を作った。エマの遺体はすでに処分されていたが、コクラにとっては母を思い出す場所になるだろう。コクラは花と、人形を添えた。母の姿を模した人形だった。

「お兄ちゃんたちは正義の味方なんだよね。悪魔は危険だってママが言ってた。人を襲うから。お兄ちゃんたちは、悪魔も倒すの?」

「………それが悪なら、倒すよ」

コクラは不思議に思った。悪魔は、悪だ。そうコクラは教えられてきたから。

「ナバリのお姉ちゃんと一緒に行けば、またお兄ちゃんたちに会える?」

「………わからない。俺たちはいろんな地を旅してるからな」

「そっか………」

コクラにはわかっていた。きっとこのままだと、もう二人には会えないのだと。

「お姉ちゃん、これあげる」

ナナは目を輝かせた。蜂の人形だった。以前の物とは違う、小さなストラップとなっていた。

「前のお人形は壊れちゃったから、新しく作ったの。でも材料がなくて小さくなっちゃった」

ナナは嬉しそうにコクラにお礼を言う。

「ううん、嬉しい。ありがとう」

ナナはマスコットを腰につけた。

「ははっ、けっこう似合うじゃん。よかったな」

コクラは恥ずかしそうにハチに言う。

「あのね、お兄ちゃんは何が良いかわからなかったから作ってないの。だからね、次に会う時までに用意しておくから、その………その時は、お人形、もらってくれる?」

ハチとナナは微笑んだ。

「ああ、もちろん。俺にぴったりの人形を頼むぞ」

コクラは嬉しそうに微笑んだ。


コクラはナバリと共に行くことを決意した。また二人と会える未来を望んで。


二人と別れ寂しそうにするコクラにナバリは声をかける。

「なあに落ち込むことはない。必ずまた会えるよ。必ず、ね」

彼女は意味深に微笑んだ。


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