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破壊者たちの正義の裁き  作者: misato
第二章
31/36

愛する箱入り娘1


大きく活気溢れる街アベマキ。この街は大勢の観光客が押し寄せ、商売人たちの声で賑わっていた。

水路が街中を通っており、水を使ったからくりが街を彩っている。

ナナは人の多さに嫌気がさしていた。人が密集している分だけ悪魔の判別が難しくなる。

「人の少ない所に避難しようか。お前が好きそうな物はあとで買ってきてやるから」

ナナはこくりと頷いた。


人が賑わう通りを避けた二人はなにやら言い争う声を聞いた。路地裏では男二人が一人の女の腕を無理矢理引っ張っている。

「放してよ!嫌だって言ってるでしょう!」

女は男から逃れようと必死にもがいている。

「そうはいかないんですよ、お嬢さんを逃がしたらどんな目にあうかわからないんでね」

助けに入ろうとしたハチと女の目があい、女はハチに向かって叫んだ。

「助けて!お願い!」

ハチの動きが常人の目に映ることはなく、知らぬ間に間合いを詰められた男たちはハチの手刀によって気絶した。

一瞬の出来事に目を丸くした女だったがハチを見て楽しそうに声を発した。

「すごいわ!あなた強いのね!」

そして女はハチの手をぎゅっと握る。

「ねえ、お願いがあるの。今日一日でいいわ、私の護衛になってくれない?」

上質で豪華な服に高そうだが品のある装飾品。一目見れば彼女が上流階級なのだとわかる。

誰もが見惚れるほどの美しい顔に豊満な体。

困惑するハチの後ろではナナが静かに闘志を燃やしていた。



彼女、リリィは二人と共に服屋へとやって来た。庶民が訪れるような店だ。

「私はお金を持っていないの。だから代わりに支払ってちょうだい。心配しなくて良いわよ、帰ったらお父様が返してくれるから」

ハチは呆れ顔で服を見繕うリリィを見る。

「なんで金持って出てこなかったんだよ」

するとリリィは恥ずかしそうに頬を染めた。

「仕方ないじゃない、お金がいるなんて知らなかったんだもの。欲しい物はお父様がくださるし、外に出たのも今日が初めてなの。外はこんなにも面白いのね、見たことのないものがたくさんあるわ」

リリィの言葉に二人は唖然とする。

そんなことあるだろうか。年はおそらくハチと同じくらい、もしくは少し上。箱入り娘にしても外に出たことがないなんて。

リリィは質素な服に着替え、料金はハチが代替えした。


長い髪を帽子にしまったリリィは満足そうだった。

「これで私だってバレないでしょう。思いっきり楽しめるわ。ねえ、あれは何かしら?」

リリィは無邪気な子供のように目を輝かせながら通りを指差す。人だかりが出来ており、そこでは紙芝居が披露されていた。

紙芝居を楽しんだリリィは次に屋台の前で足を止める。

「こ、これは庶民の食べ物なの?なんというかグロテスク……んん、独特な食べ物ね」

揚げた昆虫はリリィの口には合わなかったようだ。

その後もアコーディオンの演奏や手品、からくり人形劇など、リリィは初めてみる街の様子におおはしゃぎだった。

「はぁ、こんなにも楽しいなんて思わなかったわ。お父様はきっと外の世界を誤解しているのよ。外は危ないと言っていたけれど、こんなにもたくさんの人がいて楽しい所、危ないわけがないわ」

ハチはナナの様子を見る。人酔いしているのかげっそりしていた。

「もう堪能したなら帰った方が良い。リリィを探してるやつが増えてる」

街には怪しげな男たちが何人も誰かを探し回っていた。リリィを連れ帰るのが目的だろう。リリィは不満そうに口を尖らせた。

「まだ帰らないわ。私には目的があるの。そのために必死に家を出てきたんだもの」

「いつ終わるんだよ。そろそろナナを休ませたいんだけど」

ハチの言葉にリリィはナナを見つめる。顔色が悪いことにようやく気付いたみたいだ。

「ごめんなさい、私ったら夢中になってしまって気が付かなかったわ!あなた方の家はどこかしら?ナナさんを送り届けてからまた付き合ってくだされば良いわ」

リリィの言葉にナナはハチの腕にしがみつく。

「私は平気」

心配そうに見つめるリリィ。彼女はふっと微笑んでこう言った。

「私の目的はね、水中舞を見ることなの。もう少し街を探索したかったけど行きましょうか。公演までゆっくりしましょう」

水中舞という聞き慣れない言葉にハチとナナはわずかに胸を高鳴らせた。


公演が始まるまでの間、リリィは自分の境遇を話してくれた。

「お父様は資産家で、一人娘の私を溺愛してくれてるの。お母様は私を産んですぐに事故で亡くなったと聞かされていたわ。きっと私が外に出て何かの事故に巻き込まれるのが怖いんだと思ってた。でも最近、私に会いに来てくれた男性が教えてくれたの。お母様は生きていて、水中舞の役者としてこの街で生活しているって。だから一度で良いからこの目で見たかったの。水中舞がどんなものなのか、お母様がどんな人なのか」

リリィは楽しそうにハチを見つめる。

「私ね、結婚が決まったんですって。お父様が決めた方ですもの、きっと素敵な方よ」

そしてリリィは少し緊張気味に微笑む。

「お母様、私のことに気付いてくれるかしら?結婚を報告したら喜んでくれるかしら」

すると何を思ったのか、ナナがリリィの手をぎゅっと握った。

「リリィは思ったより優しい子。だからきっと大丈夫」

ナナの言葉にハチはハラハラする。リリィは気にすることなくナナの手を握り返した。

「そうよね、お父様とお母様になにがあったのかは知らないけれど、きっとお母様も優しいに違いないわ。ありがとう」

そして劇場内の明かりが落ち、舞台は幕を上げた。


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