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ミセリアたちは引っ越しの準備を進めた。漂う空気はとても重い。
「ハチさん、面倒事に巻き込んでしまい申し訳ありません。よければこれをもらってください」
そう言ってミセリアはお弁当を渡す。
「あんたのせいじゃないだろ。俺こそ犯人はわかってたんだ。ごめん、助けられなくて」
下を向くハチにミセリアは微笑んだ。
「もともと同じ地に長居したのがいけないんです。そして時々でも人と顔を合わせてしまったこともよくありませんでした。これからは私は人と会わないよう過ごします。この子たちが居てくれるので生活は問題ありません」
ミセリアは子供たちを見つめ、そして不安そうにする。
「私は犯人として追われることになるのでしょうか。特殊警備隊が出て来てしまえばおそらく私は逃げられません。この子たちのことを考えればここで別れるべきなのでしょうが………」
ミセリアは震える声で呟いた。
「離れたくありません、一人は嫌です………私はなんて我が儘なのでしょう………」
震えるミセリアにハチは冷静に告げる。
「あんたを犯人にはさせない、俺がなんとかする。だから心配せずみんなと一緒に居ればいい。あの子たちもそれを望んでるだろ」
ハチの言葉にミセリアは子供たちを見て微笑んだ。
一刻もはやく立ち去るために彼らは最小限の荷物をそれぞれ背負った。手を振り去っていく姿を二人は見送り、村へと戻った。
大きなシャベルを持った男の姿があった。村から離れた山のふもとに埋めたものを掘り返す。
「こんなとこに埋めてたんだな」
その声に男は驚き振り返った。そこには少年と少女が立っていた。
「ああ、なんだ。やっぱり能力者ってのは本当みたいだね。もう村を去ったと思ってたよ」
シャベルを地面に刺しヒースはハチを見つめる。
「殺した場面を視たと言ったね。ここに来たのも能力のおかげかい?」
「違う、あんたをつけただけだ」
ハチの言葉にヒースは笑った。
「気配を隠すのが上手いな。気付かなかった。やれやれ、証拠を見られてしまった」
ハチは無表情のままヒースに問う。
「なんでわざわざ悪魔の仕業に見立てた?本当にミセリアが悪魔だと思ってたのか?」
ヒースは誇らしげに話し出す。
「そんなわけないだろう、あんな大人しい悪魔がいるもんか。でも普段から村の連中はミセリアの容姿について話してたからね。全く変わらない、もしかしたら悪魔かもな、なんてね。もちろん冗談さ、でもいざ悪魔が事件を起こしたとなると、疑惑の目はミセリアへと向く」
ハチは眉をひそめた。
「彼女に恨みでもあるのか?」
するとヒースは悪びれることなく言い放つ。
「別に恨みはないさ。ただ僕の商売の邪魔ではあったね」
「商売?雑貨屋と薬屋は違うだろ」
ヒースはくすくすと笑う。
「僕は町から商品を仕入れて売ってる。利益のために町で買うよりも高くね。でもヤナギたちが行商へ行くと村の連中はあいつらに物を頼む。珍しい物もたくさんあるからさ。で、あいつらは買った値段そのままで連中に渡すんだ。商売上がったりだろう?」
「………じゃあ、その人を殺した理由は?」
ハチの問いにヒースは掘り返した地面を見る。ヒースは忌々しげに舌打ちをした。
「僕は商売に行けない年寄りたちの代理で町で露店を出してる。売り上げから給料としていくらか貰う条件でね。で、ちょっとばかし着服してたのがばれたのさ。このじじい、素直に謝って今までの金を返せばみんな許してくれるからそうしろ、言わない気なら俺から言うなんてほざきやがった。だから殺すことにしたんだよ。返せる金が出来るまで待って欲しいと頼んだら疑うことなく承諾した。バカな野郎だ」
そしてヒースはハチを見つめる。
「殺す機会を伺ってたんだ。捕まるわけにはいかないからね。そんな時、めったに人が来ない村にお前らがあらわれた」
ヒースは笑う。
「刀を携えた少年が訪れた日に事件が起きれば疑惑の目はお前らに向く。悪魔の仕業だと仕向けれなかった場合の保険さ。まあ、そもそも村の連中は僕を心底信用してる。信用というものは悪事を隠す最強の力だと思わないか?」
ヒースはさも可笑しそうに高笑いをする。
「まさかミセリアたちが村から出ていくとは思わなかったよ!犯人だと言ってるようなものじゃないか!僕にとっては好都合さ」
無表情のままハチは口を開く。
「だから掘り返しに来たんだろ。ミセリアたちに罪を擦り付けるために」
「そうだよ、君もなかなか頭がまわるようだね」
ヒースは嘲笑いながら刀を抜く。
「僕を捕まえることは出来ないよ。何も証拠は残してない。でも君たちには死んでもらおうか。君たちがいなくなっても誰も気付かない」
ハチは静かに刀を抜いた。
「お前、人を殺すの初めてじゃないだろ」
「わかるのかい?すごいね。その通り、三人殺してる。でも僕は捕まっていない。この世界は僕を裁けない」
刀を構えたハチの雰囲気が一変する。ヒースに悪寒が走った。