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破壊者たちの正義の裁き  作者: misato
第一章
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騙される人形


 古い民家が立ち並び、平和だった町にそれ(・・)は訪れた。制服を着た体格の良い男が数人、無惨な姿となった者を観察する。

「二人目か。これで決まりだな。特殊警備隊に連絡をしてくれ」

男の部下は敬礼をした後すぐさま走り去っていった。

「しかしひどいもんだ。子供を狙うとは」

「偏食だな。手足だけ喰われてる。住民に警告を出してくれ。特に子供はしばらく出歩くなと」

「了解。特殊警備隊の奴らが来るまで果たして悪魔(・・)が留まっているかどうか」



 町を渡り歩く二人の少年と少女は町の異様さを感じ取った。大人はいるが子供の姿が一切見あたらない。食堂に入り席へ座ると年配の女性が声をかけてきた。水を二人分出してくれる。

「旅の人かい?嫌な時に来たもんだね」

少年は女性に会釈をする。

「何かあったの?」

「悪魔が出たのさ。警備隊のやつらがうろうろしてただろ。昨日二人目がやられてね、専門家待ちってわけだ。何にする?」

少年は二人分の食事を注文した。

「被害者はどんな人か情報は出てるの?」

「ああ、二人とも子供だよ。まだ12そこらだったんだけどねえ。家の手伝いをしてくれる良い子だったのに、ひどいもんさ」

厨房へ歩く女性を見送ると少女が口を開く。

「特殊警備隊、どれくらいで着くのかな?」

彼らにとってそれはとても重要なことだった。

「昨日連絡がいったとすれば早ければ今日到着するかもな」

少女は緊張した面持ちで呟いた。

「どうするの?」

少年は間髪入れずに答える。

「探すぞ。特殊警備隊が来る前に見つけて、さっさとこの町を出よう」

 運ばれてきた料理を平らげ、二人は颯爽と町へと出かけた。


 少女は常に少年の影に隠れて歩いていた。辺りを見回しながら少年は問いかける。

「どうだ、まだ気配はあるか?」

問われた少女は頷いた。

「まだいる。でも見つけにくい」

少女は少年の服を掴む。彼女は不安や緊張をするとよくこうするのだ。

「食事は昨日だったんでしょ。しばらくはきっと動かないよ。任せちゃってもいいんじゃないの…?」

特殊警備隊は悪魔退治の専門家だ。彼らに任せれば彼が手を下す必要はなくなる。

 少女の思いは彼には届かない。

「うん、夜まで探して見つからなかったらそうしよう。俺らはあいつらに聞かなきゃいけないことがあるからな」



 薄暗くなった道で男が一人の少年の口をふさぎ組強いていた。少年の目には涙と恐怖があった。男は隠していた爪と牙をむき出しにし、次の瞬間、少年の片足を切り落とした。

 少年の悲鳴にならぬ悲鳴が響く。男は声高々に笑った。

「ああ、最高だなぁ!やはり子供は良い、匂いも味も、切り落とす感覚も全て!」

殺される、少年は自分の命がわずかなのだと悟った。


(なんで俺が……なんで、なんで!!)


少年の近くには薬が散乱していた。母と弟のためのものだった。すぐに帰れば大丈夫だと思ったのだ。

「人のいる道を歩くのよ、すぐ帰ってくるのよ、いいわね?」

「わかってるよ、大丈夫」

「気を付けてね」

不安そうに見送る母の姿が目に浮かぶ。


(嫌だ、死にたくない!!)


少年が心で叫んだ時、男の姿が視界から消えた。鈍い音とともに男の悲鳴が響く。

「ナナ!その子を頼む!」

誰かの声が聞こえた瞬間、少年は少女に担がれていた。何が起きているのか理解出来なかった。ナナと呼ばれた少女はすごい速さでその場から走り去る。

少年が見たものは、男と対峙する人の後ろ姿だった。



 十分に距離がとれたところでナナは少年を一度地面へとおろし、切断された足の止血をした。少年の顔は青ざめ呼吸も荒い。

「大丈夫、これくらいじゃ死なない。気をしっかり持って」

そしてまた少年を担ぎ走り出す。

朦朧とする意識の中、少年は彼女に聞いた。

「さっきのは悪魔だ…」

「うん」

「あのお兄ちゃんは、大丈夫なの…?」

ナナはかすかに微笑んだ。

「大丈夫だよ。あのお兄ちゃん、強いから」

少年の目からはさっきまでとは違う、安堵の涙が流れ出した。助かったのだ、そう実感できた。

少年は少女の首に手を回し抱き締めた。

「ありがとう、お姉ちゃん…ありがとう…っ」

片足をなくした少年はきっとこれから大変な人生を歩むだろう。ナナはそう思った。

彼女は慰めの言葉はかけなかった。


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