086. STAGE:0(9)
割れんばかりの歓声を受けてチーム全員でステージ中央に立つ姿が観客席からもよく見えた。そして、ステージ中央に設置された表彰台に上っていく。
(まさか、本当に勝っちまうとはな……)
牧野は心の中でそう呟いた。『龍馬ゲーミング』が表彰されると、会場から盛大な拍手が巻き起こる。
(本当に凄いな……)
龍馬ゲーミングには他のチームにはない特別な武器があった。
ここ数ヵ月の練習試合でのカスタム慣れ、IGLである芽依さんを起点とした作戦の構築能力、そして、相手には驚異的に映るあの守月君のフィジカル能力。
特に凄かったのは、連続であの最強との呼び声高いDeltaを瞬殺した圧倒的な強さ。
「やられましたよ……、完敗です。牧野さん、どこからあんなバケモン発掘してきたんですか」
「おいおい、バケモンって酷いなぁ……」
牧野は半分笑いながらそう返答する。それに釣られるように凌平も笑う。
「まぁ、彼がいなくても負けてたかもしれませんね。牧野さんの教えてた子は彼じゃないですよね?」
「あぁ、そうなんだよな」
そう、牧野は守月君には何も教えていない。IGLの基礎と応用を芽依さんには叩きこみ、菜希さんには紅林と一緒にバトロワゲームの立ち回り、効率的な物資の集め方や中距離のエイムの仕方やスキルの使い方を教えた。
だけど、彼には……。
守月君には特別なことは何も教えていない。元の資質だけであそこまで強いのだ。
戦闘での駆け引きや戦術、武装の選択や使い方のコツ。教える必要は一切ない。
彼には自分のスタイルがあって、戦い方があって、自分の戦略がある。教える以前に基礎が出来ていて、プロの思考を持っている。
凌平は彼がいなくても負けてたというが……。
牧野はそうは思っていない。むしろ、彼を上手いようにコントロールしてみせた芽依さんのポテンシャルが一番凄い。
(あの短時間であそこまで形を作って実行できるのがまず異常だしな……)
「あのエースを率いることができるのもまた才能ですね」
「あぁ……、そうだな……」
牧野はどこか誇らしげな様子でステージ中央にいる芽依を見た。
「俺たちも次は負けませんからね。いこう、啓介!」
凌平はそう言うと、席を立ち上がり牧野に頭を下げて会場を後にする。それに続くように啓介も会場を後にする。この業界に関わる限り必ずまたどこかで再開することになるだろう。
「いやー、凄かったですね。最後の試合も安定していましたね」
司会進行役の女性アナウンサーが、勝利チームのインタビューを開始する。会場に拍手が起こり、司会者はマイクを芽依に渡した。
「改めて優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
そんなやり取りをした後、インタビューはお決まりの質問に移行する。
「最後の試合振り返ってどうでしたか?」
「そうですね……。エースを信頼してたので信じて待っていたって感じですね」
「なるほど……。信頼してるからこそ、仲間でカバーしながら戦ってたってことですね?」
「そうですね。時間を稼げば稼ぐだけ私たちの勝機が見えてくるので」
会場はスタンディングオベーションで溢れかえる。その光景を見た芽依は少し照れた様子を見せたが、すぐに笑顔を作って一礼する。その姿に会場のボルテージが上がり、さらに拍手は大きくなる。
「いやー、本当に凄いですねぇ。さて、そんなチームのエースである守月選手にインタビューを……」
アナウンサーが芽依からマイクを渡そうとする。それを受け取った俺は少し考える素振りをしたが、すぐにマイクを受け取って口を開いた。
「えー、皆さんこんにちは。今回の優勝はチームメイトのおかげです。これからもこのチームで更に勝ち続けていきたいと思います」
会場からは拍手が止まない。俺は一度礼をして再び席に着きマイクを司会者に返すと、インタビューは違うチームへと移っていく。
そして、表彰式が終わり、一通りのインタビューや写真撮影等を終え、俺たちは会場を後にする。
菜希は紅林のところに挨拶をしに行くと言っていて、芽依は牧野と話していたので、俺は会場の外で待っていることにした。
(龍馬ゲーミングか……)
前世のNRTとは全く違うものになったが、戦っていて心地よいチームになった。そして、何よりも優勝することができた。
「おーい、守月くーん!」
会場の外で待っていた俺に芽依が手を振りながらこちらに走ってきた。俺はスマホから目を離して芽依の方を向く。
「牧野は?」
「なんか、仕事の電話するから先に行ってて言われた」
「そうか……」
俺は小さくため息をつく。すると、芽依が俺の顔を覗き込んでくる。
「どうしたの?」
「……いや、勝てて良かったなって」
俺がそう答えると、芽依は俺に微笑みかけた。
「そうだね。本当に良かった……」
彼女は小さく呟くと、優しく俺の手を握った。俺はその手を握り返す。
「守月君のおかげで勝てたようなものだしね」
「そんなことないだろ……」
「そうかな?」
芽依はそう言うと、嬉しそうにクスクス笑う。そんな姿を見ていると、自然と俺も笑みが零れる。そして、無意識に彼女の頭を撫でていた。
彼女も何も言わずに頭を撫でられるのを受け入れてそっと眼を瞑った。俺と彼女の影が、夕暮れの赤に溶けて交わっていく。舞浜の潮の香りがそんな二人を優しく包み込む。
彼女は何も言わずに笑って俺の手を握り続ける。夕暮れの赤に染まる彼女は美しいと心の底から思った。俺がそんなことを考えていると、芽依は俺を見て少し笑った後に口を開いた。
「やっぱり、変わってないなって思って」
そんな脈絡のない言葉に少し戸惑うが……。なんとなく言いたいことは分かった気がした。口にはしないが確かに前世から俺を知っている芽依にはそう見えたのかもしれない。
「そうだな……。何も変わってないのかもしれない」
俺はそう言うと、芽依は笑うのをやめてジッと俺の瞳を見る。そして、彼女は少し頬を赤らめながら小さく頷く。
「うん、そうだね。変わってない」
そう言った彼女はどこか嬉しそうで、少し照れくさそうにしているように見えた。そして、夕日は沈んでいき辺りは暗くなり始める。
芽依は握っていた手を離して一歩後ろに下がって口を開く。
「さてと……。みんなを迎えに行こうか祝勝会もあるし!」
「そうだな……」
生まれ故郷の東京にいざ帰ってきても何も感じなかった。それくらい今の暮らしに満足しているってことなんだろう。コーチとして牧野もいるし、紅林も会おうと思えばいつでも会える。
そして、龍馬ゲーミングの仲間がいる。前世とは違うけど、俺の居るべきところはこのチームなんだと強く実感した。
(今度こそ絶対に世界で戦って見せるさ……)
【コラム】
これでSTAGE:0編は完結となります。物語の舞台は再び高知県に戻ってきます。eスポーツの今に触れつつ学生ゲーマーの青春を描いていきます。




