085. STAGE:0(8)
椅子に持たれながらゲーミングチェアに体重を預ける。完全に戦闘中に意表を突かれた。
(まさか、あんな戦法取ってるとは思わなかったな……)
相変わらず正面から撃ち合いをしてくると思ったんだが、意外と柔軟に物事を考えるチームだったらしい。だが、それは敵のエースの考えではないな。
多分、向こうにその作戦を考えた参謀がいる。それにしても、グレネードの爆風で味方を吹き飛ばして意識を逸らせ且つ自分を囮にして俺を撃破するなんてな。
ボイスチャットは繋がっているが芽依は何も言ってこない。
こちらを見る瞳は「次は負けないでしょ?」そんなことを言っているように思えた。
(まぁ、負けるつもりはさらさらないがな……)
「セラフィム」と自分のシナジーは我ながら完璧だと思う。ヘッドショットの倍率ダメージ上げと仕上げてきたエイムこれは完璧に嚙みあっている。
IGLである芽依も俺の動きたいようにさせてくれている。試合中思っていたが、考え方が益々牧野に似てきたのは嬉しいと思うべきか……。
なんともまあ複雑な気持ちだった。
そして、最終試合の幕が開ける。IGLはもう芽依に一任すると決めている。俺はマップの端に降りて最速で愛銃を回収するとすぐに回復と銃弾を回収して安全地帯に移動する。
その期待に応えるように芽依の声出しは続く。
「菜希ちゃんは南下してくる敵を警戒。守月君は北側の安全地帯のほうから銃声するからそっちに走り出して」
「わかった!」
最終決戦でこれが泣いても笑っても最後だ。どのチームも捲るために積極的にファイトをしかける。特に下位のチームは失うものがないので積極的にファイトをし始める。
「菜希ちゃん、私のところに索敵のタレット置いておいて!」
「おっけー、了解!」
芽依はこのマップの最適なルートを頭に入れている。もちろん、チーム全員この数ヵ月の座学の中で最適ルートは把握している。
だが、戦局や銃声、足音やドローンなどから得た情報から最適なルートを選ぶセンスは、この数ヵ月一緒にゲームをプレイし、芽依が一番適格だと立証している。
その芽依が出した指示は「北上した敵を倒そう」というもの。
先程、上位のチームである『ARCADIA』と衝突したエリアである。正直、あの場所の制圧に時間を割くのは勿体無い。芽依だってそれは分かっているはずだ。
でも、芽依の本当の狙いはそうじゃない。
(リベンジしろ。負けたままで帰ってくるつもりか?)
そう言いたいんだろう。
世界で戦うならあんな奇策に負けてるようじゃダメだ。拾った情報から戦っていた部隊は『ARCADIA』だと分かったのだろう。
最後の直接対決で分からせる。それが、芽依の選択した答えだ。
(全く、俺を誰だと思ってるんだよ……)
長い付き合いだからこそ互いに熱くなれる瞬間を知っている。守月裕樹いや柳町俊吾はやられた後にやり返す瞬間が一番強いんだからな。
(絶対に負けねぇ……)
逆サイドからやってきのは予想通り『ARCADIA』だ。このタイミングでやってくるということは相手も大方狙っていたのだろう。
「グレネードに警戒しながら、菜希ちゃんと私で『セラフィム』以外を抑えよう!」
「芽依、わかってると思うが無理はするなよ?」
「分かってる。だから、絶対に勝ってよね」
芽依はそれだけ伝えると、南側の高台から偵察ドローンを投げて突撃する。偵察ドローンは敵を強調表示するだけで攻撃性能はない。
だが、人間的な心理でつい反応してしまうものだ。ドローンとは反対側から意表を突くように遮蔽物から飛び出す芽依と菜希は敵の『セラフィム』と味方を分断するような動きを見せる。
ここまでお膳立てされて黙ってやられるわけにはいかないよな……。
マウスを握る手が一気に熱くなる。一挙手一投足がすべて「この瞬間に勝つ」という意志がこもっている。敵のエースも観念したんだろう。
(こんな状況になったら引くに引けないよな)
互いに正面から撃ち合うことを選択した。俺のエイムが先に敵を捉える。敵の『セラフィム』のスコープが一瞬だけ光ると、俺の右下に着弾する。
「今回は俺が勝つ!」
スコープが光る瞬間、俺は素早く移動し、相手の『セラフィム』に照準を合わせる。敵の弾丸が俺のキャラに掠りHPゲージが僅かに減る。だが、そんなことはどうだっていい。
狙うのは敵の『セラフィム』の頭部。
(こういう勝負ってやっぱり胸躍るんだよな)
俺の弾丸は吸い込まれるように『セラフィム』の頭部にヒットする。勝負は数秒で決着がついた。『セラフィム』がダウンすると一気に確殺を入れる。
会場の盛り上がりが最高潮に達している。
『ARCADIA』の残り二人もなんとか持ちこたえているが、菜希の正確無比な援護射撃によりHPが削れたところを芽依に仕留められようとしていた。
エースが倒されるというのは、やはりチームとしての柱がやられるということに等しい。優秀な司令塔も優秀な駒を失えば状況を覆すことは中々難しい。
『ARCADIA』の残った二人を倒すのに、そう時間はかからなかった。
「漁夫の警戒お願い。守月君はドローンと反対側の敵を倒して!」
芽依の指示通り俺は東側から攻める。だが、すぐに菜希が声を荒らげる。
「後ろから漁夫来てるから一旦引こう。このまま行ったら反対側の敵にも挟み撃ちされるよ」
「わかった。いったん下がろう」
すぐに北側に移動しようとしたが、ふと思い出す。移動しようとしていた先にいた部隊……。
「芽依、北側にドローン飛ばそう。戦況をしっかり見た方がいい」
「分かった。じゃあ、菜希ちゃんは逆側のカバーお願い」
「了解!」
北側の高台からドローンが飛ばされる。こっちもすぐに南側の敵と対峙する。本格的なファイトはしない。攻め込ませる起点を一度作ってしまうと一気に安全地帯に駆け込んでくる部隊が銃声を聞いて集まってくる。
最終ラウンドの『キルのポイント制限なし』というルールは1試合目とは全く違った戦い方になる。
今までゲームをやってきた直感が言っている。ここが正念場だと。最終ラウンドも終わりに近づくにつれて、急激に人数が減る。
最終ラウンドになるほど激しい撃ち合いになるが、芽依の考えた作戦は敵同士をぶつけ合って部隊を減らして最後の部隊を撃破していくというもので、ドローンで情報を得ながら敵同士を誘導する。
「芽依、南側に敵が集まってるな」
「菜希ちゃんも守月君もドローン飛ばしたら一緒に岩場から顔を出そう」
「「オッケー」」
ドローンで敵の情報を拾いながらIGLするという芸当は相当難しい。ましてや、その情報をすぐに処理して臨機応変に行動しなければならない。
これは、芽依だからできることであって他のチームが容易に真似できるものではない。元々のゲームIQの高さと牧野という同類がいたからこそここまで短期間で仕上がった。
敵味方が入り乱れる乱戦状態を悠々と避けつつ、戦闘が徐々に落ち着いていく。最後の部隊が激突する瞬間に漁夫のように仕掛けていく。
「右の敵フォーカスしよう。ヒールは先に仕留めよう」
「了解!」
「芽依、敵の狙撃手に狙われてるぞ!」
「大丈夫。右は菜希ちゃんが……」
芽依と菜希の見事な連携が光る。俺が敵を翻弄するように動くと、タイミングを合わせて菜希が敵を倒したり、逆に俺を庇うように動いたりと絶妙な動きを見せる。
(マジで息ピッタリだな……)
龍馬ゲーミングは即席チームにしては息が合い過ぎている。
俺が縦横無尽にキルしながら自由にできるのも、彼女二人がしっかり連携して、的確に援護射撃をしてくれるからだった。
そして、最後の部隊同士は激しくぶつかり合った後に、漁夫の利を狙った部隊を俺たち「龍馬ゲーミング」が壊滅させて試合は終了する。
「We Defeated!!」
試合終了のアナウンスと共に、会場から盛大な歓声が上がる。勝利を実感した俺は不意に緊張感から解放されて今まで忘れていた疲れが一気に押し寄せる。ゲーミングチェアの椅子に凭れ掛かり天井を見上げてボソッと呟く。
「はぁー疲れた……」
「どうだった、私の戦法は?」
芽依がドヤ顔をしながら俺にそんなことを聞いてくる。
「素直に良かったな。まぁ、今だから言うけどさ……」
「ん?」
「やっぱ。芽依とチーム組めて良かったわ」
そんな台詞に芽依は目を大きく見開いて驚く。そして、いつもの調子で微笑む。
「ふふっ……、一番言われたかった言葉だ。ありがと」
そんな芽依の顔が試合に勝った喜びよりも嬉しかったのは内緒だ。菜希は割れんばかりの歓声にどこか気恥ずかしそうにしている。
「凄い歓声だね……」
「そりゃ、そうだ。全国の高校生の中で一番上手いチームに対する歓声だよ」
「私、もっと頑張らなきゃって思ったよ」
「何言ってんだよ。芽依と菜希がいなかったら勝てなかっただろ」
「まぁ、今は気分がいいから素直に受け取っておく」
菜希はそう言うと、少しだけ口元が緩む。
彼女の俺に対する眼はどことなく凌平を思い出す。前世で一番俺にライバル心を抱いていたのは、牧野でも、紅林でも、岡田でもなく、鈴木凌平だった。そんな凌平が菜希の眼と重なって、どこか懐かしく感じた。
(アイツいまどこで何してるんだろうな……)
この眼をする奴は絶対にゲームが上手くなる。自分が上手くなるために努力を惜しまない。俺のせいでゲームが嫌いにならずに強くなってくれたのは嬉しい限りだ。
(前世からずっとチームに恵まれてるな……)
そんなことを思い、そして、心の底からそう思った。
「表彰式が終わったら、祝勝会しよう」
「それいい。駅前にオシャレなカフェ見つけたんだけどそこ行きたい」
「わ、私、スイーツ食べたーい!」
祝勝会の場所は今回のMVPである芽依に全て任せよう。きっと、彼女なら俺たちの好みに合わせた場所を選んでくれるはずだしな。歓声と拍手を背に、俺たちは3人は舞浜アンフィシアターのステージ中央に向かっていく。
「さぁ、優勝したチームは四国-中国ブロック代表『龍馬ゲーミング』です!!」
【コラム】
試合そのもののお話は完結しました。STAGE:0の結末は元から「龍馬ゲーミング」に勝たせようと構想してあって、後はどういう風に戦況を描くかを非常に悩みました。さて、これでお話は終わりかと思いきやラスト1話だけ書かせてもらおうかなと思っておりますので明日もお楽しみに!




