080. STAGE:0(3)
日本最大の高校eスポーツの祭典、『STAGE:0』その初戦の火蓋が切って落とされる。
『さぁ、始まりました。STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019!』
アナウンサーの声が会場に響き渡ると、モニターにはチーム名と共に選手の紹介が表示される。それを見て会場の盛り上がりはピークに達する。
その歓声を耳にしながら紅林は解説席にゆったりと腰掛ける。この歓声を聞くと毎回武者震いしてしまうな……。これから始まる決勝戦に向けていよいよ熱量が高まるのを感じる……。
そして……、ついに実況アナウンサーが開幕の言葉を口にする。
『この日をどれだけ待ちわびたことか! 日本最高峰のeスポーツプレイヤーが集う舞台が遂に幕を開けます! 実況は私、立浪宗一郎でお送りします! そして解説は、元NRTの紅林尚成さんです』
『よろしくお願いします』
『さて、さっそくですが紅林さん。注目選手はいらっしゃいますかね?やはり、世代最強との呼び声が高い『ARCADIA』のエース、Delta選手ですか?』
『そうですね……。ただ、STAGE:0も第一回大会ということで未知数な部分も多いです』
予選を勝ち抜いてきた高校にダークホースがいてもおかしくない。トッププレイヤー同士がぶつかるプロリーグとは違い、STAGE:0はどの高校も予選から勝ち抜いてきた高校が激突する。
まあ、スタバトにはプロリーグが今は存在しないので、この中からゆくゆく新設されるプロリーグで競技選手になる候補が見つかるかもしれない。
『一番驚いたのは各高校の選手にインタビューして憧れている選手を聞いたんですけど、アジアの選手だけではなく海外の選手を憧れの対象に選んでいる生徒が多かったですね』
『なるほど……。憧れの選手というのはやはり紅林さんもいましたかね』
『僕はそうですね……。海外の選手というよりは、身近に対象がいたので……』
『なるほど、身近に憧れの対象がいると刺激にもなりますしね』
立浪アナウンサーは紅林の憧れの対象というのが誰なのか知っていそうな素振りだった。そして、その話題にはあまり深くは突っ込んでこなかった。
『この大会そういう志の高い生徒が参加していて、感覚的にはイベントというよりかは本気で勝ちにきている感じはあります』
『ちなみに、紅林さんはどの高校が優勝すると予想されていますか?』
『そうですね……。どの高校も実力がありますし、それぞれ特色もあるので難しいですね。ただ、あえて言うのであれば順当にいけば『ARCADIA』が実力的に一歩上ですかね』
試合はゆったりとした試合展開で、やはりレベルの高さを感じた。誰もがデスゾーンの収縮前に安全地帯の高所を取ろうとする動きをする。
予選を勝ち抜いてきた高校だからこそ基本に忠実な立ち回りをする。
『さて、試合は一試合目の半分まで来ましたが、Delta選手は攻めの姿勢を崩しません!』
立浪アナウンサーの言う通りは『ARCADIA』だけは、安全地帯に向かう敵をキルして回るような立ち回りをしている。
『Delta選手は、何を狙っているのでしょうか?』
『彼はどんな戦いでも全力で相手をねじ伏せるプレイスタイルなので、たぶん自分の実力を試したいのかもしれませんね』
立浪アナウンサーは「なるほど」と呟く。『ARCADIA』は連携がまとまっていない部分が大きな課題だと思っていたのだが、決勝ではそれがない。
良い指導者に巡り合ったのか、Delta選手に何か心境の変化があったのか、決勝を戦う上で一番厄介な高校になったのは間違いなかった。
『Delta選手が所属する高校はオンライン高校ブロック、このブロックはレベルも高くそこを勝ち抜いてきたチームですからね、やはり一筋縄では行きませんね』
『そうですね。なんというか、さっきの戦闘は止められる気配がない。そんな戦いでしたね』
進行する『ARCADIA』が安全地帯に到達し、ここから有利ポジションを取りに行くような流れになる。そうすると、接敵するのは『龍馬ゲーミング』になる。
『ここ、非常に大事な場面になりますね』
『そうですね。高知県代表の「龍馬ゲーミング」も堅実な動きをしてますね』
紅林の頭の中には篠宮菜希の顔が浮かぶ。あの牧野が気にしているチームという点では興味深い。だが、ここまで優位に進めてきている『ARCADIA』を止められるのだろうか……。
『あっと、龍馬ゲーミングにDelta選手が切り込んでいきます!』
Deltaは龍馬ゲーミングの陣地に入っていく。やはり、あの動きを見る限りではほかの選手とは一線を画す何かを持っているように見える。
だが、次の瞬間にもっと驚くような展開が起こる。
『龍馬ゲーミングのM.yuki選手がDelta選手をなんと撃破。ちょっと私には何が起こったのか見えなかったです』
『今大会通じて初めてのダウンを喫したDelta選手ですが、やはり良い動きをしています。ただ、あの一瞬の隙をついたM.yuki選手の反射神経が見事ですね』
ダウンしたDeltaのカバーをしようと『ARCADIA』の他の選手が寄ってくるが攻めに転じた守月裕樹に壊滅させられる。
これは、なんだ……。胸の高まりとどこか不思議なものを見ているような感覚が交差する……。
その感覚は初めて柳町俊吾のエイムを見た時と同じだ。紅林はようやく牧野がこのチームを気にかけていた理由をここで理解する。
(なんだよ、こりゃ……)
思わず紅林は心の中でそう漏らした。
『M.yuki選手は中国-四国ブロックでも大活躍でしたね』
『予選のアーカイブは確認していたんですけど、こんなにもフリックショットの上手い選手だとは思いませんでしたね』
守月裕樹が『ARCADIA』を撃破したことにより一気に試合が大きく展開していく。龍馬ゲーミングは守月を筆頭に手堅い立ち回りをする。篠宮菜希もやりたいようにプレイできている。
もしかしたら、『ARCADIA』よりもチームのバランスは良いのかもしれない。
『このまま、龍馬ゲーミングの完勝になるのか!』
立浪アナウンサーはそう呟いたが、まだ勝負は終わっていない。バトロワゲームに絶対はないが……。
だが、紅林は心のどこかでこの試合は『龍馬ゲーミング』が勝つだろうなと感じていた。Deltaは完全に油断してたのだろう。自分と同等かそれ以上のバケモンがいるとは知らずに……。
(牧野さん、あんたんとこの生徒やべぇな)
結果、一試合目を勝ったのは紅林の予想通り『龍馬ゲーミング』だった。
【コラム】
だいぶ、失踪しましたが生きてます。新年迎える前にはSTAGE:0の話を完結させたいと思っています。明日から書き溜める予定なので応援よろしくお願いします。ブックマークや広告の下にある評価の欄で★×5を頂けると励みになります!




