079. STAGE:0(2)
観客席の一番端の席で牧野は教え子たちの勇士を見守っていた。
千葉県浦安市舞浜の東京ディズニーリゾート内にある多目的ホール「舞浜アンフィシアター」には大勢の人が集まっている。ちなみに、アンフィシアターとは、半円形ステージとすり鉢状の客席を備えた劇場のことをいうらしい。
舞浜アンフィシアターの収容人数は2000人弱、ストリーミングでの観戦者数を合わせると数万人がこの大会に注目している。今日、ここではeスポーツの競技として、日本の高校の頂点を決める大会が開かれている。
全国大会ということもあり、舞浜アンフィシアターは関係者含めすぐに満員になっていた。その中には、ゲストで招待されてるアイドルのファンや、単純なeスポーツファンもいる。
「それでは、舞浜アンフィシアターの本日の解説を務めますのは、TACTICAL GEAR Escapeのストリーマー部門『紅林尚成』選手です!」
アナウンサーの紹介とともにカメラのフラッシュが一斉に焚かれる。その隣には、スコーピオンの現役プロ『東條麻里』がいる。
「よろしくお願いします!」
と、紅林が軽く会釈をする。会場の拍手をBGMにしながらアナウンサーは続ける。
「さて、早速ですが紅林選手、今日の大会について一言お願いします!」
「そうですね……。皆さん、この日に向けて沢山練習してきたと思います。どんなドラマが生まれるのか今から楽しみです!」
「東條さんはどうですか?」
「私は、プロの立場として今日は見させていただきます。来年の公式大会で戦うかもしれない選手もいると思いますし。しっかりと見ていきたいです」
(来年の公式大会か……)
守月裕樹はこの大会は通過点に過ぎないと言い放った。この言葉は慢心ではない。彼は本番でそれを証明するつもりだ。
「あれ、もしかして……、牧野さんっすか?」
牧野は名前を呼ばれて顔をあげる。顔をあげるとそこには懐かしい顔があった。元NRTの『岡田啓介』である。牧野は思わず立ち上がる。
「え、け、啓介!? なんで、こんなとこにいるんだ?」
「なんていうか……、成り行きですね……」
啓介は頭を掻きながら少し恥ずかしそうに答えた。すると、後ろからまた懐かしい奴が話しかけてくる。
「えっ、牧野さん!? なんでこんなところにいるんですか?」
牧野と同じようなリアクションを取ったのは同じく元NRTメンバー『鈴木凌平』である。牧野は笑いながら応える。
「そりゃ、こっちのセリフだ! ふたりともゲーム辞めたのかと思ってたぞ」
そんな台詞に凌平はバツが悪そうな顔をしながら答える。
「実際のところ辞めてたんですけどね。俺はいま教師やってて教え子がこの大会に出てるんですよね」
「僕は凌平にコーチ頼まれて指導したので付き添いで……」
牧野は「なるほど……」と呟きながら、まさか凌平が教師をやってるなんて思いもしなかったので驚きが隠せない。
凌平の教え子というのはオンライン高校ブロックを勝ち抜いた高校。チーム名は「ARCADIA」、予選の本配信の中で要注意だと思った高校の一校。
「なんの因果なんだろうな……。同じくコーチしている高校が出場しててさ」
「まじすか!どこですか?」
牧野はそう言うと啓介と凌平に自分の高校の名前を教える。すると、啓介が「え、マジですか」という顔をする。
「牧野さんっていま高知県に出向いてコーチングしてるんですか?」
「まあな。いろいろあって……。大会を見れば分かる。懐かしいものが見れるかもしれんぞ」
奇しくもこういう形で柳町俊吾を除く、元NRTのメンバーが全員揃ったことになる。牧野はそんな偶然に驚きつつ、懐かしそうに会場の様子を眺めていた。
「一番驚いてるのは紅林さんがあの場に立ってることですけどね」
「ああいうキャラだっただろ。トークが上手い奴はああいう風に世の中を上手く渡ってくんだよ」
牧野は啓介に対して笑いながら言う。会場のモニターには紅林が満面の笑みで映像に映っていた。牧野と啓介はそれを見ながら、この数年間に思いを馳せていた。
「懐かしいよな。でも、俺らの時よりずっと輝いて見えるのはなんなんだろうな」
「そりゃ、俺らの時はまだまだ発展途上でしたからね……。今の若者たちが少しだけ羨ましいです」
牧野の言葉に啓介が返す。生まれた時代が少しでも違えば、あの場に立っていたのは俺たちだったかもしれない。そんなたらればの話をしても仕方はないが、そう思ったのは牧野だけではないだろう。
「まあ、俺たちの夢は将来の若者が叶えてくれますよ。勝つのは『ARCADIA』ですけど」
「そう簡単に負けるわけにはいかないな……」
凌平の言葉に牧野が笑いながら答える。その反応に啓介も少し驚きながら、「言いますねぇ……」と返す。会場の声援は試合開始時刻と共に一気にヒートアップする。
その大きな歓声の中で彼らは戦うことになる。果たしてどんなドラマが生まれるのか……、牧野は静かに見守ることにした。
「あっ、牧野さん。ちなみに、あの『スコーピオン』の東條麻里って子、凌平の彼女ですよ」
「おい、余計なことは言わんでいい!」
凌平が焦ったように啓介の言葉に被せる。なんだか懐かしい絡みだなと思った。この中に柳町がいて紅林がいた。NRTが所有していたゲーミングハウスで、こういう日常があの頃は溢れていた。
(柳町、お前が生きてたらどうなってたんだろうな……)
牧野はそう思いながらモニターに映る紅林の顔を眺める。
「昔からお前はNRTの中で一番モテてたからな……」
「ほんとですよ。何度凌平にリア充マウントとられたか数え切れないですよ」
「そんなことしてた憶えはない」
啓介は不服そうに「嘘つけ」と突っぱねる。牧野はそれを聞いて思わず笑ってしまった。
人生って何が起こるか分からないよな。こうやって二度と会わないかもしれないメンバーにひょんなことで再開するんだから。
(運命ってものは本当にあるのかもしれないな……)
『皆様お待たせいたしました。会場準備が整いました、開幕です!』
会場は実況の声と、熱気で溢れかえる。その歓声をバックに、元NRTメンバーの視線は龍馬ゲーミング『守月裕樹』に集まることになる。
かつてNRTで伝説を作ったエースはこの試合で新たな伝説を刻むことになる。
【コラム】
昨日から「STAGE:0」の決勝大会のお話に入っております。大会の模様はできるだけ本物の大会シーンに近づけていきたいと考えております。ちなみに大会アーカイブ参考にしてます。




