078. STAGE:0(1)
「STAGE:0」、高校対抗eスポーツ大会と言われているこのeスポーツの祭典は今年で新設されたばかりの大会である。
競技タイトルの中には当初の予定にはなかった「スタバト部門」が組み込まれ、世間では大きな注目を集めている。それはなぜか。
スタバトはまだゲームリリースから1年経っておらず、アジアで公式大会が開催されるのはこの「STAGE:0」が初めてなのである。
そして、日本の高校の頂点を決める大会。それがこの「STAGE:0」である。
ちなみに、この「STAGE:0」とは別に某大手新聞社と全国高等学校eスポーツ連盟が主催する「全国高校eスポーツ選手権」というものも存在している。
こちらは、2018年が第1回となっており、今年も第二回大会が開催予定になっているが、スタバト部門は存在していない。ただ、今後追加される可能性は大いにある。
ゲームタイトルを販売している企業も大会等で名が売れれば、売上や知名度の向上にもつながるため、協力しない手はない。
同じような理由で、こういうeスポーツの大会には、様々な企業がスポンサーとして協力していることが多い。現在、日本ではeスポーツという事業に対する認知度・注目度があがっている。
これは企業的にも事業拡大の契機として捉えられている。多くの企業がスポンサーとして名を連ねる理由はそれだ。
若年層へのアプローチ、ストリーミングでの集客など、様々な観点から企業は自社のeスポーツ事業の成長を見込んでいる。
柳町俊吾が競技の選手だった時代は、ましてや高校生だった時代にはそんな大会なかった。ゲームそのものに偏見がある時代は段々と緩和されようとしている。
この大会の盛り上がりが、若い世代にeスポーツというものを浸透させるひとつの起爆剤になることを俺は期待している。
だが、一番は「自分の力を証明し、あわよくばチームにスポンサーを付ける」という点に尽きる。
このチームになら出資しようかなと企業側に思わせることができるのならば、それはこの大会で優勝することよりもよっぽど価値があるかもしれない。
芽依の夢を「スタバト」で叶えるのなら、今年中にチームにスポンサーを付け、公式大会で勝ちまくるしかない。知名度、実力、財力、どの面をとっても俺たちに足りないものが多すぎる。
だからこそ、俺は芽依のために、芽依の夢を叶えるために「スタバト」でこの大会に出場しようと思ったのだ。
全国の高校生と競い合うのは今年で最後だ。来年以降は、世界を目指すためにゲーム会社そのものが提供する公式大会に参加する。
スタバトの開発元である「silentgate」は世界有数のゲーム会社である。来年から1年を通しての世界大会を開催するとsilentgameは明言している。
競技参加者として世界を目指すという意味では、今年は国内で、来年は海外という明確な目標がある。
(転生した時代、本当に運が良かったな……)
生まれた時代に恵まれるというのはどんな職種でも当てはまるだろう。
プロゲーマーと表裏一体である配信者も同じだ。たまたまそのゲームタイトルが人気な時に生まれ、たまたまそのゲームタイトルが流行った時にプレイして人気になった。
この運を掴むことができるのは、本当に一握りしかいない。もう一度同じ奇跡を起こすことはほぼ不可能に近いだろう。
だからこそ、このたった一度の奇跡を掴み続けなければならない。
「皆さん、おはようございます。ようこそ舞浜アンフィシアターへ!」
と、この大舞台の司会をしているアナウンサーが挨拶をする。さすがに、全国大会ということもあって、会場にはかなりの数の人が集まっている。
「皆様、本日は『STAGE:0』 eSPORTS High-School Championship 2019の決勝大会にようこそお越しくださいました!」
「日本中の高校生が一堂に集結し、競い合い、予選を勝ち抜いてきた精鋭がここアンフィシアターに集結します。さあ、決勝に残り今日頂点に輝くのはどの高校か。皆さん、最後まで目を離さずにお楽しみください!」
アナウンサーのその言葉を合図に、会場は一気に熱狂に包まれる。会場に設置されたモニター、カメラの数、会場の熱気、どれをとっても一概の高校生が立つステージではない。
スポンサーの代表取締役挨拶が終了すると、次はゲストの紹介に移っていった。
「さあ、本日はeSPORTS公式TVの特別ゲストをお招きしております。どうぞ!」
アナウンサーの声と共に、画面の端からゲストがステージに登場する。そして、そのゲストがカメラの前に現れると会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
「みなさん、こんにちはー!本日はご招待いただきありがとうございます!」
とアナウンサーがゲストを紹介する。最近、話題になってる双子の芸能人だ。名前は姉が春崎有海、妹が春崎裕美。春崎姉妹はカメラに向かってウィンクをした。
その瞬間、黄色い声援が会場に響き渡る。その歓声を笑顔で受け止めると「お騒がせしましたー」と言いながらも再びカメラに向かってウィンクを決める。その仕草に再び会場からは歓喜の声が上がる。
(この人気ぶり……)
彼女たちはただの芸能人じゃない。女優、声優、配信者と姉妹二人で大きく活躍の場を広げている今を時めくマルチタレントだ。
「みなさん、本日はどうぞよろしくお願いしまーす!」
と、春崎姉妹が会場に向かって手を振る。それと同時に拍手や歓声が上がる。そして、司会の女子アナウンサーが続ける。
「それではお二人にはゲームタイトルコールの方をお願いします」
「はいはーい!任されました」
と春崎有海が元気よく手を挙げる。そして……。
「それではいくよー!」
姉の掛け声と共に妹が声を合わせ、会場中に大きなコールが響き渡る。
「「STAGE:0!」」
春崎姉妹は声を合わせると、会場が一気に湧き上がった。今日一番と言っていい盛り上がりだ。そして、その歓声を受けながら姉である春崎有海はカメラに向かって笑顔で手を振ると……。
「はい!ありがとうございましたー!」
会場の盛り上がりが冷めやらないうちに、大きなBGMと共に選手の入場に切り替わる。スタバト部門はDay1の開幕のため、俺たちを含め高校の選手たちが続々と入場していく。
「それでは、選手の紹介です!」
アナウンサーの声が会場に響くと同時に、モニターには高校とチーム名が映し出される。
合計で六十名の選手が壇上にあがると、アナウンサーが一人ずつ意気込みを聞いていく。分かっていたことだが、全体的に男性が多く、女性二人という構成の龍馬ゲーミングは異色のチームだと改めて思う。
選手の意気込みを聞いた後は残りのゲスト紹介に移っていく。芸能人、プロチームのオーナー、現役プロ選手、アイドル歌手と様々な人々が紹介されていく。
「さて、ゲストには、TACTICAL GEAR Escapeのストリーマー部門より『紅林尚成』さん、スコーピオンの現役プロ『東條麻里』さんに来ていただいております」
「よろしくお願いします」と言いながら紅林は手を振り、東條は静かに会釈をする。若干、この会場の熱気に吞まれそうになっていたが、紅林の顔を久しぶりに見て、緊張が一気に吹っ飛んだ。
俺は選手として大会に出てて、あの紅林が解説なんて何の因果だろうな……。そして、牧野も会場で応援しているというのも相まってどこか不思議な気分になる。
「ねぇ、守月君……」
芽依は小声で話しかけてきた。
「どうした?」
「この勝負、絶対勝とうね!」
芽依は気合の入った眼でこちらを見ながら言った。菜希も同じような眼をしている。「ああ、もちろんだ!」と俺は返し、椅子に座ってヘッドセットをつける。
そして、運命の試合開始の時刻が刻々と近づいてきていた。




