074. 病室での思い出(2)
「じゃあ、今日は何して遊ぼうか?」
俺がそう尋ねると芽依は待ってましたとばかりに、ベッドの端に座り、自分の隣をポンポンと叩く。そして、芽依は満面の笑み浮かべる。
最初に出会った時よりも無邪気に笑うことが多くなってきた。俺は、芽依の隣に腰をかけると、彼女は手を後ろにつき足をブラブラと揺らしながら無邪気に「何して遊ぼうかなぁ」と呟く。
芽依と遊ぶようになってからかれこれ半年の月日が経った。
遊びはボードゲームから家庭用ゲーム機へと移り変わり、パーティーゲームを二人でやるようになっていた。芽依は手先が器用なのか初めて触るわりにはゲームが上手かった。
ゲームの腕もそうだがひとつひとつの出来事に対して一喜一憂しながらゲームをプレイする姿を見て、俺はどこかゲーム始めたての自分の姿を重ねていた。
いつからだろうな淡々とゲームをするようになったのは……。プロゲーマーになる以前は、俺も芽依のように純粋にゲームを楽しんでいたと思う。
ゲームを競技として考えているといつの間にか楽しむことよりも、上達することに執着し始めていた。そして気がつけば、ゲームの楽しみ方なんてものは忘れてしまっていた。
芽依の姿はどこか自分の忘れてしまったものを教えてくれているような気がした。
「お兄ちゃんはゲームのプロなんだよね?」
ボードゲームから、テレビゲームに移った時、芽依がそんなことを尋ねてきた。先生から話を聞いていたんだと思う。「どんなかんじなの?」と芽依は興味津津に詰め寄ってくる。
俺は特に断る理由もなかったので、スマホで実際に試合に挑んでる映像なんかを芽依に見せる。すると芽依は「すごい」と目をキラキラと輝かせて、画面を食い入るように見ていた。
「私もこれやってみたい!」
マウスを振ってる動作を真似しながら、芽依がそんなことを言ってくる。
俺は若干苦笑いを浮かべながら、
「体の具合が良くなったら一緒にやろうか」
と芽依の頭を撫でながらそう返す。
芽依も小学生になったばかりだ。俺のやっているゲームタイトルは年齢規制がある。14歳以上が対象で、まだ芽依にはやらせることはできない。
でも、芽依が大きくなってまだ興味があるなら一緒にやるのも悪くない。
「うん、約束ね!」
芽依は、嬉しそうに声を弾ませる。
そして、あっという間に一年が経ち『夏』になった。暑い日差しが窓から射し込む日々が続き、蝉の鳴き声も聞こえてきていた。俺は芽依と過ごす時間が日に日に増えていった。
年度が変わってから芽依も体の調子は安定しているらしく、病室の庭を散歩するくらいまでは元気になっていた。
「お兄ちゃんは将来の夢とかあるの?」
そんな夏に芽依がそんなことを尋ねてきた。将来の夢か……。考えたこともなかったな……。
俺は少し苦笑いを浮かべながら「まだ思いつかないかな」と返すと、芽依は「そうなんだ」と驚いたような顔をしていた。そして、何かを思いついたように突然声を上げる。
「じゃあね、じゃ、私と結婚してよ!」
唐突に何を言い出すんだこの子はと思いながらも、俺は笑って「はいはい」と軽く流す。すると芽依はどこか不機嫌そうに頬を膨らませる。
「本気だよ?」
芽依がムキになってそう言ってくるので、俺もさすがに「はいはい」と流すのは失礼だなと思った。
「じゃあ、芽依が大人になってまだ俺のことが好きだったらね」
それはお約束というか……、定番の台詞だった。芽依はまだ小学生だ。恋愛感情を正確に理解している年齢でもない。
そう言われた芽依は少し不服そうな顔を見せるが、すぐに笑顔に戻った。そして、「じゃあ約束だからね?」と言って小指を出してくる。俺はその指に自分の小指を絡める。
これが、俺たち2人の『約束』だった。
そして、しばらく経った頃だったか。それは突然の出来事だった……。
俺と先生が病室の休憩室でお茶をしていると急に病室から大きな音が聞こえた。椅子が倒れる音が病室の廊下まで響き、俺と先生は顔を見合わせる。
そして、急いで病室へと戻ると、そこには胸を押さえながら苦しむ芽依の姿があった……。
「芽依!」
俺はすぐにベッドの傍の床まで駆けつける。先生に「誰か呼んで!」と声を上げる。先生は慌てて「うん」と返事をする。
芽依の苦しむ姿を見ていると、今にも消えてしまいそうな不安に駆られる。俺がベッドサイドであたふたしていると、
「お兄ちゃん……、大丈夫……」
芽依が俺にか細い声でそう言ってきた。俺は思わずその言葉を聞いて言葉を失ってしまう……。
大丈夫なわけがない……、心配で心配でしょうがなかった。それでも、そんな俺を心配してそんな言葉を口にする芽依が……、芽依のその優しさが、儚さが胸に刺さる。
できることもなく、俺はそんな芽依の右手を優しく握った。少しでも彼女の不安を取り除いてあげたかったから……。俺がここにいるから大丈夫だと伝えたい。
「お兄ちゃん……」
そんな俺の想いを汲み取ったのか、芽依は安心したように目を閉じる。そして意識を失った……。
それから病院で色んな検査を受けた。幸いにも命に別状があるわけではないそうだ。しかし、いつまた芽依が倒れるかは誰も分からない。
もしかしたら、この先ずっと……。病室に戻ると、ベッドの上に横になっている芽依の姿があった。顔色は悪くなく少しほっとする。
ふと、芽依の手元を見るといつも一緒にやっていたトランプを握りしめていた。
「また、ゲームやろうな」
俺はそう呟き、眠っている芽依の頭を優しく撫でた。そして、彼女の手にも俺の手を重ねる……。
(将来の夢か……)
芽依が聞いてきた質問を思い出しながら俺は静かに病室を出る。頭の中で『将来の夢』について考える。やはり、ゲーム選手として最高峰のレベルで戦っていたい。
『世界で通用するようなプロゲーマーになりたい!』
そんな漠然とした夢だ。でも、こんな俺を応援してくれている人がまだいる。その人達のためにも俺はもっと上を目指したい。
「芽依が目を覚ましたらそう伝えよう」
俺はそんなことを呟きながら、病院を後にし帰路に着いた。
【コラム】
芽依はまだ小学生になったばかりという年齢ですが、これが彼女の『初恋』になっております。過去編はまだ続いていきますが、芽依視点もちゃんと書いていきますのでお楽しみに!(初恋っていいですよね)




