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いーすぽっ!  作者: ともP
概要②
85/151

073. 病室での思い出(1)

 

挿絵(By みてみん)


 病室の白いベッドの隣の机には、青い花が飾ってあった。花なんて生まれてこの方買ったことがなかったので、花の名前は知らない。


 ただ綺麗だなと思っただけだった。


 青い花は、幸福や運命の象徴ともされているらしい。一部の伝統では、青い花を持つことや見つけることで幸運がもたらされると信じられている。


 病弱だという彼女に向けた花としては、悪くない選択だと思った。俺は机に飾られた青い花を眺めながら、その傍に置かれた椅子に座った。


(この子が先生の娘さんか……)


 彼女の名前は、『中野芽依』といった。芽依は、白いベッドの布団を頭までかぶり、顔を見せるつもりはないようだった。


 そんな彼女の顔をのぞき込むような不躾な真似はしない。


 俺はただ黙って椅子に座っていた。芽依は、その布団の下で嗚咽をもらす。そして泣きじゃくりながら、繰り返して言った「ごめんなさい」と……。


 病室でのそんなワンシーン、これが中野芽依と柳町俊吾の初めての出会い。


 幼い頃から体が弱く、学校に通うことができず、芽依はそれをずっと気にしているという。そして、誰かと一緒に遊ぶそんな経験はほとんどなく、ずっと病室で過ごしてきた。


 だから、芽依には友達もいないし、皆のように外で元気に遊ぶことも満足にできない。芽依はずっと学校に通えないことを気に病んでいるのだそうだ。


 それが、病室で芽依が『ごめんなさい』と繰り返す理由。何も悪くないのに、自分が学校に通えないことをひたすらに謝っている。


 そんな芽依に最初にかけた言葉はポッと頭に浮かんだ気まぐれな一言だった。


「じゃあ、俺と友達になってくれ」


 俺は何も考えずに芽依にそんな提案をした。「友達?」芽依が驚いたように、布団から顔を出し、そう口にする。「私なんかでいいの?」と俺の提案を躊躇しているように見えた。


 しかし、今思うと……それもいい思い出だな……。あの出会いがなければ、きっと俺たちはこうして同じ時を過ごすこともなかっただろうと思う。


 だからあれは『運命の出会い』だったのかもしれない。


「そう、友達少ないからさ俺」


 そう言いながら俺は柔らかく笑う。目を赤く腫らした芽依の顔に少し笑顔が戻ったように見えた。


「ずっと……、友達いないから分からないんだけど、どうやったら友達になれるの?」


 芽依は心の内を探るように恐る恐る、俺に尋ねてくる。そして、布団にこもったままでは失礼だと思ったのだろうか、芽依はその布団を横にやり、ベッドからゆっくりと腰を持ち上げる。


 透き通るような白い肌と、華奢な体はどこか壊れてしまいそうで儚く見えた。


「別に友達はなろうとしてなるもんじゃない。気づいたらなってるものだよ」


 友達なんていうのは得てしてそんなものだ。一緒に遊んでいるうちに、気づけば友達になっていて、気づいたら一緒にいる。


「だったら、俺と一緒に遊ぼう。芽依は普段は何して遊んでるんだ?」


 芽依は、「うーん」と唸りながら考える。そして少しの沈黙の後……。「これ」と指さしたのは、ボードゲームの『オセロ』だった。


「じゃあ、オセロやるか」


 俺がそう提案すると芽依はコクリと頷く。そして俺たちはオセロを始めた。俺のベッドの横に置かれた椅子の上に2人で腰掛け、しばらく二人でオセロをやった。


 芽依は無邪気な子だと思った。ただ、誰かと遊ぶという行為を心の底から楽しんでいるようだった。そして、そんな芽依の姿を見てると俺も楽しくなってきてしまった。


「次、俺ね」

「あっ……」


 そんな時間がしばらく続き……。気がつけば、俺はゲームに勝ってしまった。負けず嫌いの芽依はどこか悔しそうにする。しかし、それ以上にオセロが楽しかったのだろう。


 悔しさを露わにして「もう一回やろ」とすぐに再戦を申し出てきた。そして、俺たちはその後もオセロを続け……、結果から言うとほとんど俺が勝っていた。


 小学生相手に大人げないなと今では思う。


 そう、俺と芽依との最初の出会いは『オセロ』というボードゲームから始まった。


 芽依と病室で遊ぶことは日課になっていた。プロゲーマーだった俺はゲーム以外は特にやることもなく、暇だったので芽依の病室でオセロやトランプ、偶に芽依と一緒に絵本を読んだりしていた。


 そして、今日も今日とて俺が芽依の病室に向かうと、芽依は決まってベッドの上で「遅い」と頬を膨らませて不貞腐れていた。


 年相応の可愛らしさを感じ、少し笑いが込み上げてくる。


「ごめん、ごめん。今日はちょっと早く来たつもりだったんだけど」


 俺がそう返すと芽依はまた「遅い」と拗ねる。そんなやり取りが無性に楽しく感じる。どこか……懐かしくもある……。


 そういえば……、俺も芽依くらいの歳までこんな風に祖父とやりとりをしていたっけ……。祖父は俺を可愛がってくれていて、俺も祖父に甘えていて……。そんな関係にどこか懐かしさを感じる。

【コラム】

元の話に戻ろうかなと思ったんですけどそういえば芽依と主人公の繋がり掘り下げられてなかったなと思いまして数話ほど番外編を書いていこうと思います。

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