067. あの頃の記憶(4)
翌日、凌平は結弦をどうにか説得し、放課後にいつもやってるらしいチーム練習に顔を出してもらった。だが、予想通りというか何と言うか……。
凌平はこの状況を見て頭を抱えていた。チームメンバーは結弦のことを怪訝な顔で見ている。
(まあ、そうなるよな……)
「で、何でここにいるんだよ」
そう声を上げたのはチームメイトである春風涼太だった。無言で腕を組みながら黙っているのは舘脇翔也。そこに結弦を加えた、この三人が「STAGE:0」のスタバト部門で全国大会出場を決めたチームメイトである。
チーム名は「ARCADIA」、ここまでは結弦の驚異的なフィジカルで勝ち進んできた。
ただ、大きな問題はこのチームの連携は最悪っていうことだ。大会の映像を見たが全然息が合っていない。スタバトに関して凌平は全くの無知と言っても過言ではないが、そんな素人の目で見てもわかるほどに連携は取れていない。
その要因は間違いなく、この三人の仲の悪さが起因している。コミュニケーションの欠如、協調性の欠如。チーム制のゲームでここが欠けると、正直致命的である。
「まあ、とりあえずさ、仲間なんだからギスギスせずに仲良くしよう」
「仲間じゃねぇだろ、こんな奴……」
翔也の厳しい言葉に涼太も同調する。結弦は伏し目がちに俯いていた。
(こりゃ、手強いな……)
正直なところ、翔也も涼太の二人の実力と結弦は大きくかけ離れている。だが、たとえ実力が離れていたとしてもチームメイトに意見が言えない、言っちゃいけないなんてものはない。どんな理由であれ、結弦が『勝ちたい』のであれば、チームメイトに頼らなきゃならないがこれから何度も出てくるだろう。
「ふん、俺だってお前らみたいな雑魚に頼らなくたって1人で勝てるんだよ」
「はいはい、そうかよ。だったら、一人でやってろ」
売り言葉に買い言葉とはまさにこのことと言わんばかりに涼太と結弦は口喧嘩を始めてしまった。
(はぁ……、完全に失敗だな)
そんな光景を見て凌平は大きな溜息を吐いた。二人の言い合いはどんどんヒートアップしていき、口論だけでは留まらず遂には胸倉をつかみ合いの喧嘩にまで発展していった。
「ふざけんなよ、マジで!!」
「いい加減にしろ、お前ら! とりあえず落ち着け!」
結弦が拳を振り上げたところを凌平はギリギリのところで防ぐと何とか二人を落ち着かせた。結弦は怒って部屋から出て行ってしまった。
「悪ぃ、翔也。俺もちょっと出てくるわ」
涼太も同じように出て行ってしまった。
「はぁ……」
凌平は溜息を吐いた後、頭を掻いた。そんな様子を見ていた翔也が口を開いた。
「鈴木先生って元プロですよね?」
「なんだ、知ってたのか」
「まあ、FPS界隈では伝説って言われてますからね。最近まとめサイトでも当時の映像が話題になってますし」
当時はそうでもないと思っていたことでも時間が経てば受け入れられる。"伝説"とまで言われるのは流石に祭り上げられ過ぎだと思うがね……。
「なんで、競技辞めちゃったんですか?」
「ま、色々とな」
柳町俊吾という大きな核を失ったNRTは一瞬で統率力をなくし、瓦解した。社会の組織も同じようなことだが、誰か一人大きな力を持つものを失うと一気に崩れ落ちる。良くも悪くもNRTは柳町俊吾という核がいなくなると機能しなくなるような脆いチームだったと言わざるを得ない。だから、伝説なんていうのは買いかぶり過ぎだ。
そういう点ではこの「ARCADIA」はNRTに似てるのかもしれない。
最強のフィジカルを持った選手を核にサポートする二人。噛合えば本当に優勝できるようなポテンシャルはあるんだがな……。
「君は……、舘脇は結弦のことどう思ってるんだ?」
「勿体ない奴だと思ってます。色々と……」
翔也は結弦のことを淡々と語り始めた。
「誰にでも噛みつく、マナーも悪い、暴言が止まらないそういう点は嫌いですけど。アイツのフィジカルはチーム随一です。アイツさえいれば優勝も夢じゃない」
「おいおい、随分な評価だな。まあでも確かに結弦のフィジカルに関しては同意見だ」
翔也の言った「アイツさえいれば」という言葉は間違いじゃない。結弦のプレイには華がある。それに、どんな困難にも屈しないメンタルは目を見張るものがある。
そう、だからこそ"勿体ない"という意見はごもっともという感じである。
「どうにかしたいと思うなら協力してくれ」
「それができれば苦労しないですよ……」
舘脇はどこか遠い目をしながらそう言った。そう思うだけの経験をこれまでしてきたのだろう。でも、まだ高校生になって半年も経ってない。そんな簡単に諦念を抱くのは早すぎる。
「別に仲良くしろというわけじゃない。でも、連携は取らないと勝てないぞ」
「そうですよね……」
これまでの関係性を整理していくと翔也は結弦を認めている。だけど、結弦は毛嫌いしてそうだ。ここはお互いに一回腹を割って話す機会を設けよう。
それ以上に問題なのが……。さっき部屋から出ていった涼太と結弦の関係性だ。あの喧嘩が尾を引けば間違いなくチームは崩壊する。
(一度探りを入れてみるのも悪くないか……)
当人同士がこれは問題だと気づけばいいのだ。カスタムでも開いて凹されてみれば一度は分かるか……。一応当てはあるが、あまり自信がない。
「とりあえず、一度話したい。本番の大会までにはこのゴタゴタ全部解決させてしまいたい」
「はい、とりあえず先生の気持ちは理解しました」
翔也は渋々承諾した。涼太と結弦には申し訳ないが、凌平も手荒な手段を使わないと解決しなさそうなこの案件に軽く溜息をつきながら、事態に収拾する方向に舵を切った。
【コラム】
最近マジで忙しすぎて更新できてませんでした。ただの愚痴になりますが、人間関係って面倒くさいなと思うことが非常に多くなりました。個人的に職場に求める理想は「ストレスなく気持ちよく過ごせる空間」だったんですが今は完全に理想の姿から離れてしまってますね。




