065. あの頃の記憶(2)
凌平は真剣に話を聞いてくれていた。それこそ親身になって聞いてくれているようにも見えた。だが、結弦はその凌平の優しい視線がどうにも嫌だった。
(俺なんかに……)
そんな気持ちが溢れて止まらなくなりそうなのを必死に押しとどめていた。
「俺から言えるのはひとつだけだ。ゲームやってて楽しいか?」
「楽しくはない。だけど、ネット上のアイツらを黙らせるにはこれしかない」
凌平はその言葉に対してただ無言だった。肯定も否定も返ってこないが、何も言わないことが答えであることは結弦にもわかった。
「全く……、お前はまだ15歳ガキだろ。背負い過ぎだっつの!」
凌平は結弦の頭を軽く叩きながらそう言い放った。
「今、お前は何をしたい?」
「なんだよいきなり」
「いいから答えろって!」
凌平はそう言いながら結弦の方をまっすぐ見つめた。凌平の目は真剣そのものだった。
「ゲームで最強になりたい……」
「だったら、まずは楽しくゲームをすることから始めようぜ」
凌平は立ち上がるとベンチから立ち上がった。そして、彼は右手の親指を立ててその指を自分自身に向けた。
「俺はゲームで頂点を取れなかった。だけど、お前はまだ若いんだ。まだまだゲームで上を目指せる年齢だ」
結弦はただ凌平の目を見つめていた。彼は何も言葉を発さなかったが、その目は何かを訴えかけているように思えた。
「俺は世界大会で優勝するために死に物狂いで努力してきた。でも、今は違う」
凌平は完全に競技者としては諦めているようだった。でも、彼のゲームの熱が完全に終わったわけじゃない。その目の奥底に垣間見える炎はまだ消えていなかった。
「まずは、その性格から直すところからだな」
凌平はスーツの襟を正して、昔と変わらない爽やかな笑顔を浮かべた。
「いつでも相談に乗るよ。なんなら、来月から結弦の学校の担任になるからな」
「は?」
「俺もうプロゲーマー辞めて教師やってんだよ。今月で結弦のクラス担任が育休入るから、俺が代わりに受け持つことになった」
「はぁ、マジで言ってんの?」
「マジだよ。つーわけで、仲良くやろうぜ」
凌平はそう言ってまた、右手親指を自分に向けた。そして、凌平は結弦に別れを告げるとその場を後にした。
「意味わかんねぇ……」
結弦は凌平が去っていった方向を見ながらそんなことを呟いていた。
「自分のやりたいことをやる。これでいいんだよな……、柳町」
鈴木凌平はそんなことを呟きながら歩いていた。榛原結弦はまだ15歳だ。性格や思考回路に関して超問題を抱えてる。そんな相手のことを理解し、導くというのはそう簡単なことではない。
でも、周りの大人が関わることを諦めてしまえばそこで終わってしまう。大人がすべきなのは子供を理解し、適切な距離で見守ることだ。
「さてと、明日から新しいクラスで頑張りますか!」




