063. 最強と最凶(2)
なんの変哲もないマンションの一室で彼は育った。
画面に反射した自分と対面しながらマウスを握る手に力を込める。彼は"Delta"、本名を榛原結弦。高校1年生でありながらバトロワ系のFPSで名を馳せたゲーマー。
まあ、名を馳せたというよりは炎上してその名を轟かせたという方が正しいが……。結弦は自分の存在が多くの人間に認知されていることを悪く思っていない。
むしろ、名誉だとすら思っている。
「煽られんのはテメェが弱いからなんだよ」
「まぁ、俺みたいに強い人間からしたらネットで文句言ってるような奴は指咥えて文句言ってるだけの猿だからな」
自分の言動が悪いことだとは微塵も思っていなかった。残りのチームメンバーは大会で優勝したいからという理由でぶら下がってきただけのカスである。
結弦は都内の通信制学校に通っており、今回の「STAGE:0」もオンライン高校ブロックからの出場となっている。オンラインブロックではモストキル、そのブロックで最もキルをした選手に与えられる称号。
この「STAGE:0」において予選で一度もダウンすることなくキルを取り続けて結弦のチームは全国大会出場を手に入れている。
その数字を見ただけでどんなプレイングをしているのかは理解できるだろう。ただ、結弦はその偉業に対して特に何も感じていないし、むしろ当然のことだと思っている。
絶賛炎上中の「Delta」はSNS上で大バッシングを受けており、その炎上は止まることを知らない。
昔からFPSをずっとプレイしていた結弦はこの界隈の良くないところをよく知っている。
「雑魚の癖に文句言ってんじゃねぇ」
「死体撃ちは挨拶みたいなもんよ」
そんな風潮の中で彼は育ってきた。バトロワ系コンテンツにおいて死体撃ちは挨拶みたいな行為であり、1キルすれば「雑魚乙」と声をかけて死体撃ちをする。
そんなくだらないやり取りが横行していたのだ。
「おい、勝てるわけねぇだろ」
結弦はそう言って相手の頭にマウスカーソルを合わせるとすぐにトリガーをクリックする。その瞬間に弾は綺麗に敵の動きをなぞるように着弾する。
正確なリコイルと敵の動きを追従する動体視力と視野の広さ。結弦が連射しているアサルトライフルは弾のダメージがデカい代わりに扱いが非常に難しい武器だ。
「はぁ、つまんねぇ!」
ゲームが終われば結弦はそう吐き捨ててデスクトップ画面に戻る。そして、自分のSNSアカウントを開くとそこには大量の罵詈雑言が書き込まれていた。
過去の投稿などを遡り自分がやっていたことが掘り起こされ、本当のこともあれば、嘘のこともまるで事実化のように書き込まれている。
・ マル秘情報、Deltaは過去に「チート」を使ったことがあります。
・ Deltaの「死体撃ち」は有名な癖です。
・ 俺、動画見てて思ったんだけどこいつって昔からずっと野良に喧嘩売ってた奴じゃん。
・ あーぁ、勿体ないね。競技出れば活躍できたのにこんな風に炎上するとか笑えねぇよ。
・ 早くゲーム辞めてくれよ!
結弦はそんなコメントを嘲笑しながらスワイプしていく。実際、このSNSに書かれていることは本当のこともあれば嘘の情報もある。
ただ、結弦にとってはそんなことはどうでもいいことで真実かどうかというのは、結弦の頭の中では重要なことではない。
「やっぱ、口だけの雑魚は一生勝てないんだよ」
自分がバトロワ系コンテンツ界隈でどんな立ち位置にあるかを結弦は理解していた。まさに、界隈の嫌われ役という位置である。
Deltaが死体撃ちした人間は大手のVtuberでスタバト大会の企画や解説なども務めているような奴だった。昔から気に入らないと思っていた一人で、実力は乖離しているが上位ランカーではある。
自分の素顔を隠して配信する女には嫌悪感しかない。だからこそ、その女の視聴者の恨みつらみを買うことを承知で結弦は「死体撃ち」をした。
そんなことを考えていると着信が鳴った。チームメンバーからの連絡だった。
「なんだよ」
結弦がぶっきらぼうな口調で言うと通話相手はそれに臆することなく会話を始めようとする。
「いい加減にDMとかで謝罪しろよ。ヤバい状況だぞ」
コイツの名前は舘脇翔也。通信制の高校に通う同学年だ。ゲームの上ではそこそこだが俺の足元にも及ばない。翔也は非常に「正義感」が強い奴だった。
ただ、正義感が強すぎる人間はある一定の度が過ぎると心が病む。何事も平等、人すべて同じようにする。そんな理想は非現実的である。
翔也は途中で通信制の高校に切り替えたが、人間関係で色々あったらしく何か心の内で黒いものを抱えているっぽい。
まあ、結弦にとってそんなことなど関係ない。むしろ、コイツの「正義感」とやらは非常に面倒くさいんだよと思っている。
「俺に指図するな、雑魚が……」
翔也はその言葉にグッと言葉に詰まる。だが、そんなこと臆することもなく意見してくる。
「お前がこれから普通の生活をするんだったら今までやらかしてきた人たちにはちゃんと謝ることを勧める……」
そんなやり取りをしながら会話は終了していく。
いつものことだ。会話にすらなっていない。互いに言いたいことを言ってあとは放置するだけ。
「お前のその正義感とやらが面倒くさいんだよ」
そんな独り言を呟きながら結弦は通話を一方的に切る。チームというのはまとまっていることが是ではない。圧倒的な個人の総量でどうにかなるならそれに越したことはない。
「あーあ、雑魚とつるんでも面白いことなんて一つもないな」
本編とはちょっと逸れたエピソードになりますがここからは都内の通信制高校に通う高校生プレイヤーのお話に入っていきます。筆者自身も音ゲー界隈、FPS界隈など色々な界隈を見てきましたがある一定数はこういうプレイヤー本当にいます。




